「将棋をご存知なくても何かを感じない筈はない」

今日は、将棋日本シリーズ JTプロ公式戦決勝戦、深浦康市九段-三浦弘行九段戦が東京ビッグサイトで行われる。→中継

近代将棋1988年6月号、原田泰夫九段の「元祖三手の読み」より。

 ファン・棋士・報道関係の直結として日本シリーズは将棋界の大きな話題になる。各棋戦・各地の催しはすべて―直結であるが、日本シリーズの現場を眺めると、「日本たばこ産業」が最も地味な渋い日本文化をもり上げる着眼に敬意、ご尽力に感謝する。

 対局地の新聞、テレビ、地元支部、時には大学将棋部の有志が記録係、大盤速報解説の駒の操作にご協力下さる。深謝。

「前日祭」は楽しい。主にデパート、ホテルなど便利、広く明るく数百人入場の会場が選ばれる。主催者、棋士関係、報道関係が待つところに100名から600名集まる都市もある。

 対局者、解説者、聞き手の女流プロの多面指し、大盤解説、著書サイン会、ファンの催し将棋会、目かくし対局、詰将棋、一日店長、チャリティ会…など、その地方が喜ぶ企画がある。入場無料、記念品も用意される。

 日本シリーズはすっかり定着した。対局日の大会場には約700人から1500人以上が集まる。まさに壮観、将棋を知らない女性まで沢山入場される。思考と決断の真剣勝負、深山幽谷の如き命がけの静かな対決、プロの考える顔と姿、持ち時間各10分、秒読みは一手30秒、将棋をご存知なくても何かを感じない筈はない。気分転換、社会勉強にもなる。

 人間社会はなんと嘘、いいかげん、馬鹿ばかしいことが多いことか、人の心を引きしめる清、厳、真…の気魄を感受されるだろう。

 企画当初からアイアンドエスの関係者、本部の中島信吾さんは、表面に出ず黒子役に徹して八方に気を配って下さる。感謝。

(以下略)

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原田流の名調子。これぞ原田節。

「思考と決断の真剣勝負、深山幽谷の如き命がけの静かな対決、プロの考える顔と姿、持ち時間各10分、秒読みは一手30秒、将棋をご存知なくても何かを感じない筈はない。気分転換、社会勉強にもなる」

公開対局の公式戦は朝日杯将棋オープン戦決勝・準決勝と日本シリーズとのみ。たしかに、原田泰夫九段が書かれている通り、映像や棋譜からだけでは感じることのできないプロ棋士の対局のあらゆる空気を誰でも感じることができる絶好の機会だ。

”将棋をご存知なくても何かを感じない筈はない”は非常に説得力のある名言だと思う。

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JT杯が開始されたのはJTが日本専売公社時代の1980年。

タバコの広告の自主規制が行われ始めて以来、JTの広告はテレビなど4媒体からイベントなどのプロモーション分野にシフトしているが、タバコ広告の規制以前(イベントなどのプロモーションにシフトを強める以前)からこのような棋戦が行われていたのだから凄いことだ。

当時の第一広告社(現在のI&S BBDO)をはじめ、JT、日本将棋連盟の関係者の情熱と努力は相当なものだっただろう。

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決勝戦で戦う深浦康市九段と三浦弘行九段。

二人は奨励会時代に仲が良く、深浦三段(当時)が四段昇段できるかどうか結果を待つ間、三浦三段(当時)も一緒に待っていた。

深浦康市四段(当時)「三浦君とは仲がいいので、じゃあ研修室が空いてるからあそこで待とうという感じで」

1993年の「行方尚史新四段誕生祝賀会」で三浦四段、行方四段、深浦四段の3人で写っている写真もある。

「中学生当時の三浦君は、口はへらぬし、ガサゴソ動きまわるしの腕白小僧で、およそ将棋が強くなりそうには見えなかった」