先崎学六段(当時)「ア~なんで、こんな所で郷田とやらなきゃいけないんだ」

将棋世界1995年10月号、泉正樹六段(当時)の「公式棋戦の動き」より。

NHK杯(NHK)

 1回戦シード者で現在、名乗りを上げたのは谷川のみ。すでに下克上が棋界にも浸透している証明なのであろうか。

 予選の対局は皆必死。野獣猛進の知るところ、公式戦ではないけれど、ケーブルテレビの銀河戦予選で、郷田-先崎の決勝戦があった。「ア~なんで、こんな所で郷田とやらなきゃいけないんだ」と先崎は泣いていた。

 早指しなら、神吉、櫛田と並ぶ”大関相撲”の先ちゃん、しっかり郷田を翻弄していた。

(以下略)

早指し戦(テレビ東京)

 この棋戦、対局者がどういう気持ちで、スタジオに入るのか、皆さんにご説明します。

「集中力、集中力、集中力! アッ忘れちゃいけネェ冷静沈着。昨日は詰将棋トレーニングもしたワイ。敵のやってくる戦法だって1年分研究してんだから。あとは集中、冷静、1週間前からジョギングして、瞬発力も鍛えているんだよ。これで負けたら世の中狂ってる。努力も女神も人情も信用しねえぞ。アーなんだか、自信がなくなってきた。どうしたっていうんだ!指がひとりでに震えてるじゃネェか!!」 野獣猛進は常にこんな感じでした。

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持ち時間の長い対局では、どんなに集中していたとしても、対局室の外に出て気分転換をはかるなど緩急をつけることができるが、テレビ棋戦は持ち時間が短く、対局中ずっと集中力を保ち続けなければならない。

持ち時間の長い対局を、フルマラソンのコースをある区間は短距離走のスピードで、ある区間は長距離走のスピードで走る競技とすると、テレビ棋戦は100m走か200m走のように集中して全力疾走をしなければならない競技であり、泉正樹六段(当時)のように感じるのは大いにあることだと思う。

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短距離走というと、私は小学生の頃、運動会の短距離走(50m)ではいつもビリだった。誰かを抜いたという記憶、自分よりも後ろに誰かいたという記憶が全くない。それでも全然悔しくなかったのだから、すごい子供だ。