谷川浩司王将(当時)「私は、もし昔の棋士といまの棋士が対局すれば、いまの棋士が勝つと思うんです。でも、それは本人の力で勝つというより、知識で勝つという面もかなりあると思うんですね」

将棋世界1995年11月号、池崎和記さんの「昨日の夢、明日の夢」(谷川浩司王将)より。

将棋盤に向かうのが大事

―谷川さんは奨励会時代はどんな勉強をしていました。

 いま考えたら何もやってなかったんじゃないかと思う。特に高校を卒業するまでは。卒業したときに六段から七段になったんですけどね。奨励会時代は詰パラ(詰将棋パラダイス)や将棋世界、近代将棋で詰将棋を解いてました。それと当時は師匠(若松政和)の教室で藤内一門の研究会があったので、それに入れていただきました。

―どんなメンバーですか。

 内藤先生をのぞいて藤内一門の全部です。月に1回か2回。最初は私は5級ですから角落ちで指導を受けてたんですよ。棋士は森安先生(兄弟)と師匠で、あとはみんな奨励会員です。私が奨励会に入ったのは昭和48年ですから。

―どのくらい続いたんですか。

 5年くらい続きましたかね。あと、これはずいぶんゼイタクな話なんですけど、奨励会に入ってから小阪先生に定期的に教えていただきました。

―個人稽古を。

 そうです。当時、小阪先生は三段だったと思いますが、月に2、3回、ウチに来ていただいていたんですよ。

―須磨の実家に、小阪さんのほうからわざわざ出向いて来たんですか。

 ええ、いまから考えると、とんでもない話で(笑)。最初は香落ちで、それから平手という感じで。奨励会に入ってから2年ぐらい、いや3年だったかな。

―それは谷川さんからお願いしたんですか。

 いや、師匠が小阪先生に依頼したんだと思います。恵まれていたということですね。

―じゃあ、何もやってないことはないじゃないですか。谷研(谷川研究会)は七段時代にできたんですね。

 藤内一門の研究会が下地にあったと思いますけどね。私は高校を卒業して(56年)時間ができたんです。前年に梅田の1LDKのマンションを購入してましたので、そこを使えばいいと。

―メンバーは。

 すでに棋士だったのは南君と脇さんで、あとはみんな奨励会員。西川、神吉、浦野、井上、本間、野田、藤原、長沼……。一番多いときで12人ぐらいでした。5年ぐらいは続いてたと思う。名人になってからもやってましたから。

―解散したのは谷川さんが忙しくなったからですか。

 みんな、ある程度、棋士になってますから全員揃うのが難しいんですよ。でも、けっこういいかげんな研究会で、終わってから食事して酒を飲みに行くのが楽しいということもあった。何といっても神吉宏充がいましたからね(笑)。ちゃんとした研究会にするんなら神吉宏充はシャットアウトするべきでしたね(笑)。

―現在は研究会はやってませんね。

 たまに井上君を自宅に呼んで指すぐらいですね。ヒマなときは1対1の研究会はもっとやっていいと思いますけど、みんな家がバラバラなんでね。

―谷研は谷川さんにとってプラスでしたか。相手は下の棋士と奨励会員だから、自分が得るものよりも、相手に与えることのほうが多かったのでは。

 うーん。でも、そういうこととは関係なく、将棋盤に向かうということが大事なことでね。ただ研究会といえども、体調が万全でないと自分自身のためにならない。例えば前日が対局で翌日が研究会というのは寝不足になりますから、そういうのはあまり意味がない。

―いまの谷川さんの立場だと、研究会をやっても効果があるとは思えませんが。

 いや、そんなことはないです。例えば自分はあまり指さないけど、相手が誘導してきたら応じなければ仕方がないという戦型があるでしょう。そういうのを研究会でも指していると、ちょっと感覚がつかめるというのはありますから。パソコン(を使った将棋)はやっぱり、なかなか頭に入らないですね。1、2分で並べ終わるから、どんな将棋だったか忘れることがあります。だからパソコンと棋譜、両方でやる形にしないと。

―福崎さんは寝転んでマウスを動かしてますよ(笑)。谷川さんは将棋盤で一局の将棋を並べるときは、どのくらい時間をかけますか。

 私はあんまりかけてないです。5分、10分ぐらいでサッと並べるくらいで、最近の流行形などは別に並べ直して考えることはありますけど。

―いまの若手はよく研究してますね。谷川さんが四段のころは、こんな雰囲気はなかったでしょう。

 いまのほうが競争も激しいし、勉強もしていると思います。ただ自分も含めて、みんながやってることが知識の量を増やすための勉強みたいな感じになってますから、本当に自分の力を高めることになってるかどうかは疑問ですね。

―それは僕も感じます。みんな棋譜を知ってて、指定局面みたいなところを一生懸命研究しているから知識は増えてるけど、未知の局面になると対応がヘタというか、右往左往している。だから、いまの棋士が本当に強くなっているかはわからないですね。

 私は、もし昔の棋士といまの棋士が対局すれば、いまの棋士が勝つと思うんです。でも、それは本人の力で勝つというより、知識で勝つという面もかなりあると思うんですね。

(つづく)

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「将棋盤に向かうということが大事なことでね。ただ研究会といえども、体調が万全でないと自分自身のためにならない。例えば前日が対局で翌日が研究会というのは寝不足になりますから、そういうのはあまり意味がない」

この言葉にはハッとさせられる。

言われてみれば当然のことかもしれないが、「研究会」を「勉強」なり「自分のやりたいこと」に置き換えてみた場合、ついつい忘れがちになってしまうことだ。

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たしかに、ブログをやっていても、疲れていたり眠くなっている夜に書くよりも、朝起きてから書くほうが頭がスッキリしていて良いのではないか、と思うことがある。

夜と朝、それぞれ一長一短があり、どちらの方が良いのかは難しいところだが、きっと、私の場合は、体調万全で夜に書くのが理想形なのだと思う。

なかなかそういうことがないから理想形と書いてしまうわけだが、このブログの記事の更新時刻が月~金は7:07、土日祝日8:08の場合は、前の晩以前に書き終えているケースがほとんど。(ゾロ目の時刻に自動更新されるように設定している)

それらの時刻よりも遅い時刻に更新されている場合は、朝に書き終えたと思っていただいて間違いない。