将棋世界1999年5月号、深浦康市六段(当時)の「昇級者喜びの声(C級1組→B級2組)より。
昨年の手放しの喜び様に比べ、今年は素直に喜べない理由が二つある。
一つは2回戦で戦った、対屋敷七段戦。早くも勝負所と、位置付けていた対局だったので、今後の長丁場を占う意味でも気合が入った。やや面白いか、と思っていたが、図からの△8五桂が何とも彼らしい手で、以降もろくも崩れていった。敗戦。結果以上にもろく崩れた自分に絶望した。
3回戦からは懺悔の気持ちで指し続けた。つらい対局が続く。8回戦の中田(功)六段戦も本人曰く「これ以上なく、捌けた形」。振り飛車穴熊のほぼ金得なのだからその通りであろう。
最終局を3番手で迎える事になったが、懺悔の気持ちは変わらない。対局中、夜戦に入っても自分の将棋を見にくる人はほとんどなく、順当に上位2名が上がったのだろうと思っていた。そして感想戦終了後の毎日新聞の山村さんの言葉は全く意外に聞こえた……。
喜べないもう一つの理由は、村山聖さんの事。亡くなってからの様々な報道で、彼の事がようやく分かってきたのだから自分に腹が立つ。「なぜ大きなハンディを持つ彼よりも、自分のクラスは下なのか」本当に自分は甘いと思った。彼には永遠に追いつけないかもしれないが、これからを頑張るしかない。
C級1組を突破できた事は嬉しいのだが、全く実感がない、というのが実状。B級2組の表の組み合わせが出来れば、また、意欲が湧いてくる事と思う。
ともあれ苦労をかけた家内と、どこか旅行にでも、と思ったが理由あって封印。ホッとする間もなく、頑張らなくてはいけなくなりそうである。
声援して下さった皆様、遠くから見守って下さった皆様に昨年同様、感謝しております。これからもよろしくお願いします。
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昨日の記事の三浦弘行六段(当時)と同時にB級2組昇級を果たした深浦康市六段(当時)。
深浦六段も三浦六段と同じく、村山聖九段の生き方に心を動かされている。
表現は異なるが、二人とも自分を甘いと感じたのが共通している。ストイックな二人だからこそ、より一層強くこのような思いを抱くことになったのだと思う。
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映画『聖の青春』の松山ケンイチさん(村山聖九段役)以外のキャスティングが発表された。
発表資料によると、キャスト・キャラクターは次の通り。(敬称略)
- 東出昌大/羽生善治
- リリー・フランキー/森信雄(43)
- 竹下景子/村山トミ子(61)…村山九段の母
- 北見敏之/村山伸一(58)…村山九段の父
- 染谷将太/江川貢(23)…村山九段の弟弟子
- 安田 顕/橘正一郎(41)…村山九段を心配しながら明るくサポートする棋士
- 柄本時生/荒崎学(25)…東京に出てきた村山九段と公私ともに交流
- 筒井道隆/橋口陽二(40)…将棋連盟が発行する将棋雑誌編集長
森信雄六段が43歳と設定されているので1995年の当時の年齢であることがわかる。
荒崎学は先崎学六段(当時)がモデルと思われる。25歳は1995年当時の先崎六段の年齢と一致する。
橘正一郎は滝誠一郎七段(当時)がモデルと思われるが、滝七段の1995年での年齢は47歳なので、設定の41歳とは6歳の開きがある。
滝八段は森信雄七段の兄弟子であるが、森信雄七段よりも下の年齢に設定されているということは兄弟子という設定ではないのかもしれない。原作とどのような変化があるのかが注目点。
橋口陽二は原作者の大崎善生さんがモデル。大崎さんは1995年に38歳なので、実際よりも2歳上の設定。
江川貢は村山九段の弟弟子で23歳。「奨励会三段リーグに所属。満26歳までに四段に昇段できなければプロへの道が閉ざされるというルールに苦しみ喘ぐ。森師匠と共に、聖とは家族のような存在」と資料にあるので、設定としては、1997年に26歳で四段昇段した増田裕司四段(当時)に状況的・年齢的に近い。また江川貢の名前的には奨励会を退会して現在はアマゾンに住む江越克将さんにも近い。山崎隆之少年も含む複数の弟弟子のエピソードが江川貢に集約されているのかもしれない。
映画の公開が楽しみだ。
→東出昌大 『聖の青春』で羽生善治役に!リリー・フランキー、染谷将太らも出演(CINEMA TRIBUNE)