渡辺明四段(当時)の四段昇段の記

将棋世界2000年5月号、渡辺明四段(当時)の四段昇段の記「面白いところ」より。

 初参加だった前期の三段リーグ、最終日に連勝し勝ち越すことができた。勝ち越したことで三段としてやっていける自信がついた。そして迎えた今期の三段リーグ。序盤の6局を終えた時点で3勝3敗と五分の成績。しかしここから6連勝と星を伸ばすことができた。そして11勝4敗で迎えた大阪での石高三段との一戦。図の局面は、横歩取りの将棋で、今△5四銀に対して▲7七桂と跳ねた所。

渡辺明1

 ここで僕は、△6四歩で決まりだと思っていた。▲7五歩から▲8五歩と飛車を追われても△8三飛と逃げれば大丈夫。しかし、先に▲8三歩成があるではないか。僕はこの初歩的な手筋をうっかりしていたのだ。予定変更で△4三金としたがこれでいいはずがない。以下いいところなく負かされた。戻って、△5四銀では△5四飛とし、5筋の歩交換を狙い、じっくり指せば面白かった。序盤からずっと苦しいと思っていたが、図の前の数手で急に指しやすくなった。しかし、ここで大悪手の△5四銀を指してしまった。

 僕は、負けたことよりも、何も考えずに指してしまった自分が情けなくなった。帰りの新幹線の中は、悔しさからか、一睡もすることができなかった。その後、数日間は「どうしてあそこでもう少し考えなかったんだろう」という思いが消えなかったが、まだ自力だったので、もう一度頑張ろうと思い、立ち直ることが出来た。そして最終日は、優勢になってからも、焦らずに落ち着いて指せたと思う。

  将棋は、最後まで何が起きるか分からない。必勝の将棋を負けたり、必敗の将棋を勝つこともある。僕はこれが将棋の面白いところだと思っている。これからも、将棋を楽しむことを忘れずに頑張っていこうと思っている。

 最後に今まで御世話になった所司先生、北習志野将棋クラブの皆様、両親にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

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渡辺明四段誕生の時も大きな話題となった。

それにしても、よくよく考えてみると、この文章は15歳の少年が書いているわけで、すごいことだと思う。

その後の渡辺明少年の活躍は皆様がご存知のとおり。

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昨日、藤井聡太三段(杉本昌隆七段門下)と大橋貴洸三段(所司和晴七段門下)が四段昇段を決めた。(四段昇段日は2016年10月1日付)

藤井聡太三段は、将棋界では史上最年少となる14歳2ヵ月でのプロ入り。

新四段誕生のお知らせ *藤井聡太(史上最年少四段)・大橋貴洸(日本将棋連盟)

愛知の中学2年 藤井三段が史上最年少でプロ棋士に(NHK)

これまでの中学生棋士の記録は、

加藤一二三四段 14歳7ヵ月(1954年8月1日、中学3年)
谷川浩司四段 14歳8ヵ月2週間(1976年12月20日、中学2年)
羽生善治四段 15歳2ヵ月3週間(1985年12月18日、中学3年)
渡辺明四段 15歳11ヵ月(2000年4月1日、四段昇段を決めたのが中学3年の3月)

最年少棋士としての記録更新は加藤一二三九段以来62年振り、中学2年の棋士としては谷川浩司九段以来40年振りということになる。

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Wikipediaによると諸々の最年少記録は、

公式戦優勝:羽生善治(16歳11か月・若獅子戦)
新人棋戦を除く公式戦優勝:加藤一二三(17歳0か月・高松宮賞争奪選手権戦)
タイトル最年少挑戦:屋敷伸之(17歳10か月・棋聖戦)
タイトル最年少奪取:屋敷伸之(18歳6か月・棋聖戦)
タイトル最年少防衛:屋敷伸之(19歳0か月・棋聖戦)
名人最年少挑戦:加藤一二三(20歳3か月)
名人最年少奪取:谷川浩司(21歳2か月)
名人最年少防衛:谷川浩司(22歳1か月)
竜王最年少挑戦:羽生善治(19歳1か月)
竜王最年少奪取:羽生善治(19歳3か月)
竜王最年少防衛:渡辺明(21歳7か月)

藤井聡太四段が、これらの記録をどこまで塗り替えられるかが興味の一つとなってくるが、逆に、記録には拘らずにどんどん成長を続けていってほしいという個人的に思う。

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順位戦A級最年少は加藤一二三九段で、A級1年目の4月が18歳3ヵ月。(加藤一二三九段の四段昇段の時は四段昇段即順位戦参加だった)

藤井聡太新四段が順位戦で毎年昇級したとして、A級1年目の4月は18歳9ヵ月。

制度の違いがあるとはいえ、この記録だけは破ることができない。

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藤井聡太三段が通っているのは名古屋大教育学部付属中学校。

国立大学法人唯一の併設型中高一貫校で、中学の1学年の生徒数は男女40名ずつの80名。

中高一貫校ということでは渡辺明竜王と同じような環境だ。

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自分が14歳2ヵ月の時に何があっただろうと調べてみた。すると、

  • 札幌オリンピック
  • 横井庄一さん帰国
  • 連合赤軍あさま山荘事件

かなり大きなことがあった時だ。

というか、あまりにも昔の出来事であることに気付き、呆然とする…