将棋世界2000年5月号、加藤昌彦さんの「あほんだら、アウトロー 〔復活の光 屋敷伸之七段〕」より。
いつだったか屋敷邸で飲み会をした時のこと。忘れられない事件が私を襲った。仲間たちとすし、おでんを肴にドンチャン騒ぎをしていた時である。ビール、日本酒、ウイスキーを何本空けたのか記憶がない。みんなすごい呑み方をした日だった。最後は私も飲み過ぎがひどく頭がガンガンになってきた。屋敷は「大丈夫ですか。ポカリスエット飲まれますか」。なんと親切な心遣い。私はそんな屋敷の気持ちが嬉しくなり、ポカリスエットをイッキに飲み干した。すると今度は腹まで激痛が走る始末。
「あっヤバイよこれ」(屋敷)
最初から封が開いていたポカリは賞味期限がなんと4ヵ月過ぎている。
「今は何月だっけ」
「11月ですよ」と仲間たち。
みんなゲラゲラ笑っている。そのポカリスエットは夏場、ずっと置きっぱなしになっていたものと知り、体が震えた。ホンマに恐ろしいヤツラがそろっているもんや。笑うまえに助けてくれよ。病院嫌いの私、それから朝までうなされ続けたことは一生忘れへんで。
「すみません、捨てようと思ってましたがウッカリ置いたままでした。
屋敷は頭を下げた。私は捨てられるはずのポカリスエットを飲まされた怒りが収まらなくなった。
「こんな腐ったポカリなんてあるんや……」と私は大声で叫んだがみんなはやっぱり笑てるだけ。勝負の世界の奴は性格まがっとるで、ホントに。
こんな目に遭ってもまた屋敷と会うと飲み会の企画話になる。景気の悪いことは私も屋敷も直ぐに記憶から消し去ってしまう。
(以下略)
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きっと、封が開いていなければ、賞味期限をかなり過ぎたポカリスエットを飲んでも腹に激痛が走ることはなかったと思う。
いったん開封した飲み物は細菌などが入り込むので、早く飲むに越したことはない。
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牛乳などは、飲んだ瞬間の味で、飲んではいけないものかどうか判断がつくが、スポーツ飲料は味が変わらないものなのだろうか。
ちなみに、スポーツ飲料はpH(水素イオン指数)が酸性のため、保存料無添加の飲料に比べると、細菌の増殖速度がやや遅いという。
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それにしても、大らかな屋敷伸之九段らしいエピソードだ。
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現在の将棋界でポカリスエットというと、永瀬拓矢六段が今期の棋聖戦五番勝負で大量に採用したことが話題となった。
今から6年前には次のような写真も撮られている。
→王将戦第1局の激戦から一夜明けた久保棋王は、この勢いでポカリスエット同様に羽生王将を一気に飲み干す(スポニチ)