将棋世界2000年1月号、「第25回将棋の日(箱根町)」より、次の一手名人戦、羽生善治四冠-藤井猛竜王戦。
対局前に「藤井システムを教わろうと思ってます」という羽生に対し、「一番得意な戦法なので」と受けて立った藤井。羽生の▲7五銀(図)は、解説の佐藤康光名人、谷川浩司棋聖が「見たことがない」と驚いた手。角交換後の自陣角で遠く敵陣を睨む斬新な構想だ。しかし、藤井もその角頭に集中砲火を浴びせる。一時は次の一手名人が決まる前に対局が終わるかもと心配されたが、羽生はギリギリの凌ぎから攻め合いに持ち込み、一手勝ちを収めた。
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将棋の日に行われたこの対局(持ち時間各5分)を見てみたい。
出だしは藤井竜王の藤井システムっぽくない四間飛車。
1図以下の指し手
△3二飛▲6六銀△4五歩▲7八銀△5二金左▲9九玉△5四銀▲7五銀(2図)
この図が冒頭の図。
角交換は避けられない状況となった。
2図以下の指し手
△7七角成▲同銀△4二飛▲7九角(3図)
羽生善治四冠(当時)の▲7九角。もの凄い自陣角だ。
3図以下の指し手
△2二飛▲8八角△6五銀▲8六銀上△1二飛▲2四歩△7六銀▲7八金△2四歩▲6八金右△5四角(4図)
▲7九角は後手の飛車を4筋から2筋に移動させ、▲8八角から飛車のコビンを狙う遠大な構想だった。
藤井猛竜王(当時)は角頭を狙う。
4図以下の指し手
▲7七金右△同銀成▲同銀△4六歩▲同歩△4七歩▲8六銀上△4八歩成▲同飛△7六金▲7四歩(5図)
羽生四冠、今度は後手玉のコビンを攻める。
5図以下の指し手
△8七金▲同金△同角成▲7三歩成△同銀▲7四歩△6四銀▲7八金(6図)
藤井竜王は馬を作った。
本譜とは関係ないが、私が酔っ払っている時だと、△5七角と打てれば飛車銀取りになるな、と思って△8八馬▲同金△7五銀▲同銀△5七角と指してしまうだろう。そして▲7八飛と逃げられて酔いがいっぺんに覚めてしまうという流れ。
6図以下の指し手
△6五馬▲6四銀△同歩▲2三銀△6九銀(7図)
コビン攻めから一転して▲2三銀! 香車が欲しいということなのか、馬を作って守りに働かせたいということなのか、狙いは分からない。
△6九銀に▲6八金と寄ったりすると△8七金で先手の負けになる。
7図以下の指し手
▲1二銀不成△同香▲7三銀△同桂▲同歩成△同玉▲7五飛(8図)
▲7三銀~▲7五飛が凄まじい順。後手の馬がいなくなれば、先手陣の不安材料は大きく減る。
8図以下の指し手
△同馬▲同銀△6二玉▲6四銀△7四金▲5五角△9六歩▲6六桂△9七歩成▲7四桂△5一玉▲9七香△同香成▲同桂△7八銀成▲同飛△8七銀▲3二角(9図)
先手玉もかなり危なくなったが……
9図以下の指し手
△9八歩▲同飛△7九飛▲8九歩△9八銀成▲同角成△8六香▲8八銀△2八飛▲3二銀△7四飛成▲7五香△8八香成▲同歩△2九飛成▲8九香△8六桂▲4一金(投了図)
まで、115手で羽生四冠の勝ち
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この一局、序盤早々から後手が△9五歩と端歩を伸ばしているものの、藤井システムというよりはノーマル四間飛車の展開。
「藤井システムを教わろうと思ってます」という羽生四冠の期待は、結果的には成就しなかったような形にも思える。
しかし、藤井システムに定跡や定形はない。藤井システムのロジックにより相手の出方次第ではオーソドックスな四間飛車になる場合もある。そういった意味では、藤井猛九段が指す四間飛車全体が藤井システムと言うこともできるかもしれない。