将棋世界2001年9月号、加藤一二三九段の連載自戦記「棒銀一筋」より。
ここで話は全く違うが、千日手についてふれておきたい。私は千日手をかなり経験している。その最たるものは、昭和57年度、第40期名人戦であった。千日手2局、持将棋1局の入ったこの十番勝負は、将棋の歴史の中で大成功であったと確信する。千日手は、将棋にしか出現しない、セールスポイントなのである。一部に千日手批判説があるが、もしその説を長年棋界にある人が言うのであれば、私はその人に勉強し直すことをすすめたい。千日手が生まれるほど将棋は難しくきびしいものであり、人生にとっても簡単に答えが出せないような事柄はいくらでもある。繰り返して言うが、千日手は将棋のセールスポイントなのである。
公式棋戦での千日手データ
平成3年度から12年度まで過去10年間の公式棋戦での千日手は424局あり、総対局数との比率は1.8%。個人別では丸山名人、三浦八段、阿部七段の3人が最多の17局。次いで羽生五冠と森内八段が14局、藤井竜王が13局、谷川九段と佐藤康九段が11局の順。タイトル戦登場などで局数がもともと多い棋士や、勝負に辛いといわれる棋士に千日手局が多い傾向が見られる。なお、加藤九段は4局と意外に少ない。(編集部)
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加藤一二三九段がこのような強い論調で書くことは非常に珍しい。
それほど、強く訴えたかったことなのだろう。
「千日手が生まれるほど将棋は難しくきびしいものであり、人生にとっても簡単に答えが出せないような事柄はいくらでもある」が格好いい。
決して千日手を奨励しているわけではなく、やむを得ず千日手になったとしてもそれはベストを尽くした結果であり、批判には当たらないということ。
私は千日手に対して思うところは何もなかったけれども、加藤一二三九段がこれほどまでに言うのだから、これからは「千日手は将棋のセールスポイント」に宗旨変えしよう。