将棋世界2002年11月号、橋本真季さんの「ほのぼのエッセイ」より。
9月8日、関西将棋会館の「女性将棋ファンのつどい」に参加してきました。今年でなんと11回目。10年ひと昔と言いますが、それ以上経っているんですね(と感嘆しつつ初回から毎年参加している自分に驚いていたりする)。
この催しは棋士との親睦会のようなもので、将棋大会はありません。お茶を飲んだりケーキを食べたりしながら将棋の話を聞いてわいわい楽しく1日を過ごします。途中、各自の棋力に合わせた将棋教室がありますがそれも1時間程度。将棋を全く知らない人にも十分楽しんでもらえる内容が満載です。
ところで今回のファンの集いは、今までにない雰囲気でびっくりしました。一緒に参加したみっちゃんが「なんか会場が色めき立ってますよ」と目をまん丸にさせるほど。で、そのみっちゃんを「なるほどね」と納得させたのは山崎隆之五段でした。関西で山崎五段のことを話す人は、まず「いま売り出し中の」か「ジャニーズ系の」という言葉を口にします。キリッとした眉に涼し気な目元、プラスさわやかな笑顔とくれば誰もがそう言うのも当然です。
なにせ司会の徳谷さんが紹介したとたんに、デジカメと携帯カメラがパシャパシャいうんですもん。前列で肩を寄せ合っている女の子達が一瞬報道陣に見えました。
「みなさんとお会いできて光栄です。これからもっと活躍できるよう頑張りますので、ぜひ僕のことを覚えてください」のあいさつに一段とパシャパシャが響き、その後、パシャパシャは山崎五段がケーキ(福島界隈で最近ブームになっているアニバーサリーのティラミス)を食べているときや、目隠し将棋で目隠ししているとき、指導対局のときに起こりました。そのほとんとの方が山崎五段や他の棋士のホームページを作っていらっしゃいます。次の日には目隠し対局の棋譜が載っていました。すごい!
私は将棋は指しません、とはっきり言い切る人がいたのにも驚きました。でもそういう将棋の楽しみ方も成立しているんだと思うと、ちょっと嬉しくなりました。
①最近の棋譜を勉強してどんどん強くなりたい人②将棋を指すことが好きな人③プロ棋士に指導してもらうのが好きな人④指さないけど将棋を見るのが好きな人等々。いろんな形の将棋ファンがいますが、突き詰めて考えれば②以外の人は将棋そのものより棋士に魅力を感じているのだと思います。その究極が今回出会った「指しません」の人なんだろうなあ。
面白かったのは席上リレー将棋、目隠しの山崎五段に二枚落ちで挑戦するコーナー。解説の谷川勝敏が「ここはこうしてこうなれば調子がいいですね」と解説するたび「そんなうまいこといかへんて」とナイスツッコミを入れる金田さん。関西のレディースセミナーでずっと谷川先生に習ってこられ、気心知れた仲だからこその会話です。
将棋は山崎五段の勝ち。変則的な序盤でややこしい局面になったにも関わらず、鋭く攻め、手堅く守っての勝利。目隠ししているのにすごすぎる!
(中略)
興奮冷めやらぬまま、みんなは会場を後にしました。棋士がアイドルに思えた一日。ジャニーズのファンがそうであるように、会場の隅ではさっそく福間貴斗1級にチェックが入っていました(いわゆるJr.ですね)。これからのこの新たな将棋ファンはどんな風に広がって行くのだろう。
(以下略)
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山崎隆之八段が20歳の頃。
この時代、「観る将棋ファン」という言葉はなかったが、現代の流れを先取りしているような素晴らしいイベントだ。
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ジャニーズ系という言葉が出ているが、1998年の時点では、行方尚史五段、佐藤紳哉四段、山崎隆之四段(段位は当時)の3人がジャニーズ系と呼ばれていた。
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1990年以降の将棋世界のグラビアで見てみると、最初に称号が与えられたのが郷田真隆四段(当時)で「プリンス」。
その次の時代が上記の1998年頃で「ジャニーズ系」。
更にその後、山崎隆之八段は「西の王子」の称号を得ている。
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「女性将棋ファンのつどい」は現在も開催されており、昨年は10月10日に行われている。
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「アニバーサリーのティラミス」のアニバーサリーは、関西将棋会館の至近距離にある「アニバーサリー2001」のこと。
ホールタイプのオーダーメイド専門の店なので、対局中のおやつというわけにはいかないが、フランスのマキシム・ド・パリ、アルケシュトラートでフランス料理を学び、プティマルキューズでパティスリーを学んだ中村康治さんがグランシェフを務めている。
同じ経営で、「ワイン立ち飲み処 アニバーサリー」が隣接しているようで、こちらもかなり気になる。