金で王を失う

今年は芸術家の岡本太郎生誕100周年。いろいろな周年記念事業も行われる。→岡本太郎生誕100周年記念事業公式サイト

岡本太郎は、漫画家の岡本一平と歌人で作家だった岡本かの子との間に長男として生まれる。

今日は、岡本一平と将棋の話。

近代将棋1950年4月号(創刊号)、漫画家の宮尾しげをさんの「将棋随談」より。

漫画家で将棋の心得のあるので自慢だった故・岡本一平と宍戸左行の両人、漫画家連の伊豆温泉行の旅に出て、つれづれなるままに宿で一席さした所、歩の動きに異論があって、左行自称名人が怒ってしまった。一平自称名人も自論をすてない。一言二言いっていたが、棋面の勝負では、もの足りなくなったか、取っ組み合いになってしまって、とうとう、唐紙を破って、隣座敷へとび込んで、ギューギューと一平名人王手をかけられてしまった。外の連中が仲に入って、どうやら勝負の程は、あいまいに終わったが、あとで宿屋から唐紙の損料をとられて、両人大こぼし。

「オイあの勝負は歩の争いではなかったぜ」

「そんな事あるものか、君の歩がインチキするからさ」

「歩じゃないよ、金の争いだよ」

「ええ、金、そんな事あるものか」

「金だよ、宿から唐紙の損料を請求してきたじやたから、どっちも金を損するわけぢゃないか」

「成程、歩んとにそーだね」

と左行名人福島生まれなので、なまり言葉が、丁度しやれにもなって、両人大笑いをして、仲良く損料を割りかんで出した。

あとで、この被損害者が漫画の名人であったと聞いた宿屋の主人、

「こっちは唐紙以上の損をしました。有名な漫画の先生と知ったなら、唐紙に絵をかいて貰って、損害の代償にすれば良かった、私の方は金で王を失いました」

と、こぼした。

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唐紙とは襖に貼る加工紙の一種。京唐紙の全て手作業のものは、現在では一枚30,000円から60,000円するという。

岡本一平は、妻・かの子が不倫を繰り返し、果ては不倫相手の医師を家族と同居させる”奇妙な夫婦生活”を送ったほど寛容(?)な部分があったが、将棋に関してはそうでもなかったようだ。

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岡本一平の甥(=岡本太郎の従兄弟)にあたるのが、昨年亡くなった俳優の池部良さん(享年92歳)だった。

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