今日は、竜王戦決勝トーナメント1回戦、増田康宏四段-藤井聡太四段戦が行われる。→中継
藤井聡太四段にとっては歴代連勝新記録となる29連勝が懸かった戦いとなる。
それにしても、この29連勝の新記録が誕生するかしないかとなる一戦が、竜王戦決勝トーナメントの大舞台であり、かつ対戦相手が二番目に若い棋士でありライバルである増田康宏四段という劇的な展開。
増田康宏四段は、羽生善治三冠、森内俊之九段、山崎隆之八段、糸谷哲郎八段に続く、史上5人目の10代の新人王だ。
まるで、映画やテレビドラマや小説のストーリーに出てくるような舞台設定と言っていいだろう。
——————
今年の4月に放送されたNHK戦、畠山成幸八段-増田康宏四段戦で私は観戦記を担当させていただいたが、その時に非常に印象に残った増田康宏四段の絶妙手をあらためて紹介したい。
1図は畠山成幸八段が3四の地点で銀を交換して▲3四同角と進出した局面。
次に▲2三角成からの2筋突破が見えているが、▲2三角成の瞬間に△2七歩と打たれ、▲同飛は△4九角の詰めろ飛車取り、△4九角に▲2八飛と詰めろを消しても△5八角成▲同飛△2三金があるのが先手にとって辛いところ。
1図で先手の手番なら、▲7六歩△同飛▲7七歩と受けてから▲2三角成と行きたい。
後手も、普通の手を指していたら▲7六歩以下7筋を守られて▲2三角成が受からなくなる。
ここで増田康宏四段が指した手が△3六歩(2図)。
解説の豊島将之八段が、
「強気ですね。イヤな手ですね。感触の良い手ですね」
と瞬時に反応した一手。
畠山成幸八段が局後に、「どうしようもなくなっているからビックリした」と語った一手。
「▲同歩なら△5五角▲4六歩△8八角成▲同金△7九銀。▲7六歩なら△3七歩成▲同桂△3五飛です」(増田康宏四段)
さりげなく見える一手が必殺手であることが驚きだ。
この後、▲2三角成△2七歩▲3二馬△2八歩成と進む。
——————
増田康宏四段のエピソードはNHK将棋講座2017年6月号掲載の観戦記に書いているが、この時に面白かったのは、お母様のこと。
増田康宏四段が将棋を始めたのは、5歳の時、お母さんが買ってきたボードゲームの中に将棋があったことがきっかけ。
お母様はアマ三段の実力で将棋大会などにも出場しており、振り飛車党。
増田康宏四段に、お母様に教えることはあるのか聞いたところ、「私が家で母に将棋を教えたりすることはありません」ということだった。
意外に思えたが、よくよく考えてみると、郷田真隆九段も将棋を教えてくれたアマ三段のお父様とは、プロになってからは将棋を指したことはなく、親に将棋を教えないのは棋士の本能なのかもしれないと考えた次第。
——————
対局前の控え室、対局後の控え室、後日取材を通して、私が増田康宏四段に対して抱いた印象は、「爽やか」ということだった。
自然体で、非常に感じが良く、質問に対してとても丁寧に答えてくれる、バランス感覚のある好青年という印象。
——————
一部のマスコミで、増田康宏四段-藤井聡太四段戦の対決感を煽るような報道があり、それを訂正すべくと考えられるが、増田康宏四段が対局前のコメントを発表している。
→藤井四段の新記録29連勝が懸かる一局を戦う増田四段が異例のコメント(スポーツ報知)
このような行動にも、増田康宏四段のバランス感覚が表れていると思う。
——————
今日の対局は、どのような結果になっても様々な意味での名局が生まれるような感じがする。
今日の展望としては、マイナビ将棋情報局の記事が秀逸。
→神童VS神童! 藤井聡太四段VS増田康宏四段戦の展望(マイナビ将棋情報局)