「私、将棋の話はもういいの。普通の話がしたいの」

将棋世界2003年5月号、鹿野圭生女流初段(当時)の「タマの目・2」より。

☆広恵ちゃんの悩み

 先日、仕事で北九州市に行ってきた。市政40周年と言う事で、棋士は谷川浩司王位、米長邦雄永世棋聖、森下卓八段、中井広恵女流三冠、山田久美女流三段、本田小百合女流初段、中倉彰子女流初段、とタマ、それから、2日前に棋士になったばかりの島本新四段の9人も呼ばれている、ゴージャスなイベントだった。棋士の方たちだっておもしろかったのだが、今回のメインは女流が5人もいた事。この話を書こうと思っている。

(中略)

中井「前夜祭とか打ち上げとかでファンの人としゃべる時ってたいがい将棋の話ばっかりだよね」

山田・タマ「そうかなあ」

中井「私、将棋の話はもういいの。普通の話がしたいの」

山田「たとえばどんな話?」

中井「政治でも、旅行でも星の話でもいいの。とにかく将棋以外。私の回りって将棋関係ばっかりでしょ。普通のサラリーマンなんていないもん」

タマ「広恵ちゃんが将棋以外の話だと退屈すると思われてんのかな?」

山田「広恵ちゃんが、将棋の質問とかすると一生懸命答えすぎてるんじゃない」

本田「いやぁー、やっぱ、大リーグの松井と話するとしたら、野球の話するでしょう。そんな感じで、相手は中井さんに気を使ってるんですよ」

中井「そんな気、使って欲しくないよ。私なんか、将棋の話が終わった……と思ってすぐに違う話をするのよ。でもまた将棋の話に戻っちゃってんの」

山田「それは、きっと間が悪いのよ。将棋の話、将棋の話、一生懸命した後、ホッと気を抜いていると、当然相手は、中井さんに退屈させちゃいけないと思って次の質問をしてくる。広恵ちゃんが違う話をしても、無理して私に話を合わせようとしてるんだと思って将棋の話をまた向こうから出してくる、って感じなんだよ。きっと」

中井「えーっそうかなあ」

タマ「他の話への持って行き方がヘタなんじゃないの。将棋の話になってもスーッと流して違う話に持って行けばいいじゃん」

山田「そうそう。名人戦の話になったら、対局の内容じゃなくて、その時のごはんの話とか、景色の話とかに持って行くとかさあ」

タマ「打ち上げの席なら、先に、もう将棋の話は終わりにして、楽しくやりませんかって宣言するとかぁ」

本田「先に聞かれそうな事は、全部言っておくとか」

山田「5歳で将棋を始めてネ。内弟子ん時は大変で、100手位は先の事読むんですよ。正座は結構つらいですよ。とかガーッとまくしたてといて、自分の好きな星座の話でもなんでもすれば良いじゃん」

(以下、エンエン2時間、山田・本田・タマの3人で広恵ちゃんを指導する)

中井「……わかった。私、この4人の中では、一番無口だって事が」

山田・本田・タマ「(一斉に広恵ちゃんから目をそらせて)クックックッ」

中井「私ってやっぱ、シャイだからなあ……」

―大爆笑の渦―

 ファンの皆さん、中井さんと話をする時は、くれぐれも、将棋以外の話をしてあげて下さいね。

☆翌朝

中井「ねェねェ彰子ちゃん。ファンの人と話をする時って将棋の話が多いよね」

中倉(彰)「エッ。あーそうですかね」

タマ「広恵ちゃん、何言うてんの、相手(中倉)は、話のベテランやんか。新人(中井)がそんなん言うてもスーッと流されて終わりやっちゅうねん」

中井「ちょっと聞いてみたかっただけ……」

(以下略)

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将棋以外の話で無難なのは、

「今まで行った海外の中でどこが一番好きですか?」

「嫌いな食べ物は何ですか?」

「よく見ているテレビ番組は?」

「今まで見た映画でお薦めの作品はありますか?」

「ジンギスカンは下味がついているタイプとタレにつけるタイプ、どちらが好きですか?」

などだろうか。

「昔の星占いにはへびつかい座がありましたが、どうして今はなくなってしまったか、知ってますか?」

「山手線の駅名全部言えますか?」

「幽霊は見たことがありますか?」

などは、ハイリスクかもしれない。