大優勢に見えるのに実は苦しい局面

将棋世界2003年5月号、高野秀行四段(当時)の「第16期竜王戦」より。

 もう一局が▲佐藤康光棋聖-高橋道雄九段戦。

 まず1図を見ていただきたい。無条件の成桂。先手陣は次に▲2八歩とすれば飛車成りが受かる格好。どちらを持って指したいかと聞かれたら、100人中99人が「先手」と答えそうな局面。

 本譜も▲4二成桂△2一玉▲5六飛△5一歩▲2八歩△6四歩▲3六歩△6二金▲6六角と進み以下65手の短手数で佐藤の勝ち。序盤の作戦が決まり以下圧勝と思えるが、これが全く違う!佐藤のコメントを聞いていただこう。

「1図は研究していた局面。簡単に優勢と思っていたんですが、指されてみると大変ですね。▲4二成桂が悪手。▲5二同成桂△同金▲5六飛と指さねばなりませんでした。本譜は後手陣がしっかりしているので、はっきり不利。4二成桂がかえって目標となっているのです。最後、高橋九段にミスが出たので勝ちましたが、ずっと苦しい将棋でした」。

 ▲4二成桂が悪手、ずっと苦しい将棋。うーん、唸らざるえない。私は思いましたね。「プロの将棋って難しい!」。

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1図から▲4二成桂としたとしても、どう見ても先手が優勢に見える、控えめに言っても先手指しやすいように見える局面。

しかし、たしかに、1図から指し進めていって、先手の有利を拡大できるような具体的な手順はなかなか思い浮かばない。

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技巧2で1図を検討すると評価値は先手がプラス470~500位で、お薦めの手は▲5二同成桂△同金▲5六飛。

▲4二成桂△3一玉となった局面でも評価値は少ししか下がらない。

私が使っているPCは演算処理能力が低いし解析時間も短いので評価値などは参考にならないかもしれないが、どちらにしても、佐藤康光棋聖(当時)の中では自身の形勢を非常に厳しく見ていたということ。

佐藤康光九段が読みに関して常に悲観派というわけではないだろうが、このような形勢に対するシビアな視点が強さの源泉の一つなのだと思う。