将棋世界2003年6月号、丸山忠久棋王(当時)の「一手啓上」より。
私は現在、長野県の軽井沢に住んでいる。実戦研究や情報収集には東京にいるほうが便利だが、自然に囲まれた静かな環境でじっくりと将棋に向き合うことも、自分には必要だと考えたからだ。対局や研究会などで東京へ行くことが多いが、まったく苦にならない。
休みの日には、地元のスポーツクラブで汗を流したり、車でドライブしたり、山を歩いたりして過ごす。軽井沢での生活は快適で、自分には合っているようだ。
「撥雲」。私が扇子に揮毫した言葉である。
”暗雲をはねのける”という意味で、昨年名人位を失った私の心境と再起への決意を込めている。
羽生さんに挑戦した棋王戦五番勝負は、出だし2連敗のあと3連勝してタイトルを取ることができた。連敗からの逆転は、まさに「撥雲」の言葉どおりの結果でほっとした。
将棋界も新しい年度を迎えた。この一年も、気負わず自然体で、前向きに臨みたい。
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「撥雲」
気持ちが落ち込んだ時に心の中で唱えたくなるような言葉だ。
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「撥雲」は、李白の漢詩に出てくる「撥雲尋古道」という言葉からとられている。
この李白の漢詩は、高峰に隠遁している師を訪ねた時のことを描いたもので、「撥雲尋古道」は「雲をおし開いて、古い道を尋ねた」という、文字通りの物理的な表現。
暗雲をはねのける、という気持ちでは、新撰組の近藤勇の養子、近藤勇五郎が東京・調布に開いた剣術道場「撥雲館」のネーミングの方が近いかもしれない。
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「撥雲」と雰囲気がやや似ている言葉としては「雲外蒼天」がある。
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丸山忠久九段が軽井沢へ移ったのは2002年の夏頃と思われ、当時の「新・対局日誌」では「親しい深浦七段も初めて聞いたそうで」と書かれている。
丸山九段が結婚をしたのが2005年3月。この時は既に東京または千葉県に戻っていたので、丸山九段が軽井沢に住んでいた期間は2年~2年半と思われる。
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軽井沢といえば別荘。別荘地を住まいにするというのも趣があって良いのかもしれない。
映画「007シリーズ」でジェームズ・ボンドを演じたショーン・コネリーは自宅がバハマ諸島、ロジャー・ムーアは自宅がモナコで別荘がスイス。
二人の共通点は、007のロケ地で気に入った場所に住居を構えたこと。
1970年代の英国労働党政権時の税金が驚くほど高かったのが、ロンドンからモナコに居住地を変えた理由だと、ロジャー・ムーアは語っている。
税金を上げれば財政再建につながる、とは言えない好例だ。
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それにしても、007に大活躍してほしいような国際情勢になっている。