将棋ジャーナルならではの過激な見解

将棋ジャーナル1984年3月号、グラビア「―第22期十段戦は4-2で中原防衛― やっぱり中原には、笑顔がよく似合う」より。

 タイトル戦の記事で、

『闘い終わった両者は、淡々と感想戦を始め、そこには勝者のおごりも敗者の悔恨もみられず、実に清々しいものがあった』

 こういうのがままある。

 勝ってうれしい、負けて悔しいは、人間ならば必ずある。そしてどんなに隠そうとしても、にじみ出てくるのである。しかし、心やさしき将棋ジャーナリストとしては、あまり生な、過酷な表現は控えるのが定跡となっている。写真なんかでも、負けてあんまり落ち込んだような表情は載せないものである。

 ところで今期の十段戦は、やや盛り上がりに欠けた感があった。取材陣がいつもより少ない。

 十段中原が優等生なら挑戦者桐山も優等生。静と静、善と善である。毒気まるでなし。これが、中原-米長、中原-森のように、静と動の組み合わせで毒気も少々あると、グッと盛り上がったのだろう。

 優等生同士の感想戦は、勝っておごらず、負けて悔しがらず、と書くのがちっともおかしくない雰囲気であった。言い過ぎを承知で言えば、ちっとも面白くないのでした。

 そして、写真も笑顔の平和な一枚を選んでしまいました。

 でも、中原十段の写真を、ベタ焼きから、八つ切りに伸ばしてみると、ウーン、これが実に不自然でなく決まってるんで驚きました。やっぱり中原って笑顔が似合う人なんですねェ。

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将棋ジャーナルならではの過激な見解。

たしかに昔のプロレスなら、ベビーフェイス同士の対決などは考えられず、ベビーフェイスVSヒールの戦いしかあり得なかった。

フレッド・ブラッシー、バディ・オースチン、ディック・ザ・ブルーザー、クラッシャー・リソワスキー、キラー・コワルスキー、スカル・マーフィー、ブルート・バーナード、アブドーラ・ザ・ブッチャー、タイガー・ジェット・シン、ザ・シーク、など文字を打っているだけでワクワクしてくるような悪役レスラーと日本人レスラーの対決で盛り上がった1970年代までのプロレス。

1980年代、スタン・ハンセンとブルーザー・ブロディ、ロード・ウォリアーズのようなヒールを超越した圧倒的に強いレスラーが活躍するようになり、ベビーフェイスVSヒールの図式は薄まったように思う。

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昔は、圧倒的に強い木村義雄十四世名人や大山康晴十五世名人がヒールに見えた人がいたかもしれないし、振り飛車党のファンから見たら振り飛車退治が得意な居飛車党の棋士がヒールに思えたりしたかもしれない。

実質的にはプロの将棋は昔からベビーフェイス同士の戦いだと思うが、現代のプロ棋界は完全にベビーフェイスVSベビーフェイスだけと言って良いだろう。

どちらにも勝ってほしい、どちらにも負けてほしくない、けれども両対局者のうち一人は敗者になってしまう、という現実に悩まれているファンの方も多いと思う。

ヒールがいなくてもファンを魅せることができるのが将棋の良いところだ。