将棋世界1993年5月号、郷田真隆王位(当時)の「昇級者(C級2組→C級1組)喜びの声」より。
運が良かった昇級
棋士になって3年目の順位戦。
昨年、一昨年と昇級を目指したものの、それぞれ6勝4敗、5勝5敗と昇級にはほど遠い成績で内容的にもあまり良くなかった。
今期の目標は勿論昇級だったが、それと同時に10局を通して充実した気持ちで指したいと思っていた。
6月。棋聖位に挑戦した関係で、1局目の小倉五段戦は日程をずらして対局した。
例年、スタートがあまり良くないので、この1局目は一つの山場と思っていた。
序盤、中盤とずっと苦しかったが、終盤での逆転勝ちで、この1勝は大きかったと思う。
こうして振り返ってみると、勝った将棋よりも苦しかった将棋を思い出してしまうのは何故だろう。
3局目の依田五段戦、7局目の中川五段戦が思い浮かぶ。
とくに中川五段戦は、6連勝対5勝1敗での対局で、これを勝てば昇級が見えてくるというお互いに大事な一番だった。
図は、中川五段が▲6六銀右と指した局面。
次に▲7五歩や▲7六銀とされては、将棋が終わってしまうので何かしなければいけないが、30分考えて打った△7四歩が大悪手。
こうしておいて次にゆっくり△6四歩が受けにくいと思っていたが、▲2四歩△同歩▲2三歩とされて事の重大さを悟った。
やはり△7四歩なんていう手はなかったのだ。良くも悪くも△7四銀と出る一手だったと現在の局面を考えるよりも後悔の気持ちで一杯になった。
以下、泣きたくなるような手順が続き、普段ならすぐ投了となるところが、しばらくすると頑張る気になってきた。
その後は信じられない逆転勝ちで、今度の昇級に結びついた。
本当に運が良かったと思う。
こういう将棋を指していては先が思いやられるが、来期、C1での順位戦も精一杯頑張りたいと思います。
最後に、応援して下さった皆様に御礼申し上げます。
ありがとうございました。
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郷田真隆王位(当時)はラス前に昇級を決めており9勝1敗(1敗は最終局)の戦績。
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「こうして振り返ってみると、勝った将棋よりも苦しかった将棋を思い出してしまうのは何故だろう」
ここでの「苦しかった将棋」は「苦しかったけれども勝った将棋」。
仕事でも同じかもしれない。
例えば営業で、「とんとん拍子に獲得できた案件」よりも「競合が強力だったけれども、終盤で逆転して獲得できた案件」の方をより強く覚えているものだ。
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「今期の目標は勿論昇級だったが、それと同時に10局を通して充実した気持ちで指したいと思っていた」
この考え方は見習いたいと思った。
例えば、物を書く場合でも、読者に喜んでもらえるようなものを書くのが目標だとして、それと同時に、充実した気持ちで書きたいと思い続けることも大事なのだと思う。
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書いているうちに、今日は、このブログを始めてからちょうど12年ということを思い出した。
干支が一周りしたことになる。
一番最初の記事は2008年6月4日の「流れ流れて」。
変なタイトルだが、当時の心境そのものだったのだろう。
今からYouTuberになるわけにもいかず、これからもブログを書き続けたいと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします。