将棋マガジン1993年8月号、羽生善治三冠の「今月のハブの眼」より。
5月と聞いて連想するものは、ゴールデンウイーク、5月病、梅雨が近づいて来た、などなどですが、最近、一つ気づいたことがあります。
それは、鯉のぼりを見かけなくなったのです。
私が小学生のころは色々な所で見かけたもので、記憶としてはおぼろげながらも残像として残っています。いつのまにこうなってしまったのだろう。
しかし、考えてみればそういうものは結構あるようで、レコード、ダイヤル式の電話、聖徳太子の1万円札、歌番組、家の近所にあったお肉屋さん、などふと気づくとほとんど見かけなくなりました。
何気なく過ごしていると何も少しも変わりない気がしますが、やはり少しずつ変化はあるようですね。
5月の公式戦は3局。
1年間の平均からすれば圧倒的に少ない。しかし、今月は普段の月以上に忙しかった。
おかしい、絶対におかしい。
それでもそのおかげで間隔が空いてもまったく気にならなかった。そして、対局が近づいて来ることも。
(以下略)
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言われてみて気がついたが、たしかに鯉のぼりを見なくなって何十年経つのか…
聖徳太子の1万円札は1986年1月に発行停止。
歌番組は、「夜のヒットスタジオ」が1990年10月に、「ザ・ベストテン」は1989年9月に終了している。
元号が変わったからといって、それに連動して世の中の様々なものが変わる理由はないのだけれども、昭和から平成になった頃に、やはり変化がいろいろあったということになるのだろう。
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「1年間の平均からすれば圧倒的に少ない。しかし、今月は普段の月以上に忙しかった」
羽生善治三冠(当時)が「おかしい、絶対におかしい」と書いているのが可笑しい。
ところが、この後の文章を読んでも、どういうことで忙しかったのか、どうしておかしいと感じたのかが書かれていない。(書かれているのは、5月中に行われた3局の解説)
わかっているのは5月7日に棋王就位式が行われたことぐらい。
このような、ミステリアスな文章がはさまれているのも、なかなか面白いと思う。