伝説の「島研」の旅行会

島朗九段、羽生善治二冠、森内俊之名人、佐藤康光王将による「島研」。

一度だけやった旅行会がどのようなものだったのか。

将棋世界2002年8月号、『伝説の「島研」同窓会』より。

―将棋以外で思い出はありますか。

島 会費がかなり貯まったので、一度4人で伊豆山へ旅行に行きました。平成3、4年頃かな?

羽生 島さんの車に乗せてもらって行った記憶があります。

―何泊ですか。

島 1泊ですよ。すごく味のない旅行なんですけどね。ただカードをしていただけのような(笑)。

羽生 観光するような場所ではなく、周りにも何もなかったですから(笑)。

島 落ち着いてしっとりとした名旅館です。作家の田中康夫さんが当時かなりお気に入りでした。

羽生 麻雀卓を借りようとしたら断られました(笑)。相当異色な客だったはずなんです。男4人で行って1泊だけですからね(笑)。

―その時の写真はありますか。

島 いや、みんなの心の中にしか思い出は残さない主義なんです。

羽生 写真を撮るという習慣の人は一人もいなかったと思いますけど(笑)。

佐藤 当時は、そういう概念がなかったんです(笑)。温泉に入ってもありがたみを感じませんでした。

森内 サクサク食べて、トランプをやったような気がしますね(笑)。

島 別に飲んで人生を語ろうという気もないし・・・。たぶん、これからもないでしょう(笑)。基本的にあっさりしている方がいいと思います。

―贅沢な旅行だったようですが、それでも会費は使い切れなかったのでは。

(以下略)

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伊豆山は熱海駅より北東、熱海と湯河原のほぼ中間に位置する。

源頼朝は平治の乱の後伊豆に流された時、伊豆山神社に源氏再興を祈願しており、結婚前の北条政子との逢瀬の場でもあったとされる。

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島研の四人が泊まった旅館はどこなのか調べてみた。

田中康夫さんの著作には「伊豆山 蓬莱旅館」という小説がある。

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発売日:2006-09

また、田中康夫さんの「それでも真っ当な料理店」では、蓬莱旅館を非常に高く評価しているという。

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発売日:1999-03

島研の旅行で行ったのは、「蓬莱旅館」とみて間違いはないだろう。

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「蓬莱旅館」は、2012年6月18日より星野リゾートが女将に協力する形で経営参加し、「星野リゾート 界 熱海」として営業している。

当時も今も高級旅館であることは変わりない。

〔温泉〕

陽光豊かな熱海。徳川家康に愛され江戸幕府の直轄領として栄えた熱海の温泉は「御汲湯(おくみゆ)」として歴代の将軍を癒してきた。「界熱海」はその熱海・伊豆山温泉の源泉「走り湯」を引いている。

〔食事〕

館の目の前に広がる相模湾で獲れる魚介類を中心に、熱海の大地と海に育まれた滋味豊かな食材を使った懐石料理を楽しむことができる。

「蓬莱旅館」時代の懐石料理のメニュー例は次の通り。

先付け

ホワイトアスパラ・コンソメジュレ

八寸

稚鮎塩焼き、田楽、姫サザエ、粽寿司(タイ昆布締め、イカ、たまご)

お椀

菖蒲椀:青豆寄せもの、トリガイ、ウド合わせ

お造り

アジ、アオリイカ、赤貝、ヒラメ、鰹

おしのぎ

よもぎ餅、みぞれ餡

焼き物

桜鱒西京焼き

炊き合わせ

アイナメ、新ジャガ、グリーンピース

揚げ物

穴子、フキの天ぷら

酢の物

根三つ葉

食事

赤出し、ご飯、お漬け物

デザート

夏みかんとメロン

蓬莱旅館は、一泊一人50,000円だった。(現在は一泊二食で一人34,000円から)

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夕食は、どうみても酒が飲みたくなるメニューだ。

そこを酒もほとんど飲まずに、トランプに突入。

たしかに、酒を飲まなければ、遊びの選択はトランプくらいしか残されていないかもしれない。

ちなみに、羽生二冠が当時の座談会で「相当異色な客だったはずなんです。男4人で行って1泊だけですからね」と語っているとおり、蓬莱旅館は二泊の女性客、夫婦客、カップルが中心だったようで、男性だけ4人というのはほとんど異例のケースといえる。

しかし、男4人で行って一泊だったからまだ良かったのだと思う。

男4人で二泊だったら、もっと異端視されていたに違いない。