近代将棋1994年1月号、谷川浩司王将(当時)の「寄せを極める」より。
新年号から1年間、終盤の講座を担当する事になりました。
終盤戦は、将棋の中で一番難しく、また重要な分野ですが、自玉を詰められるまでに相手玉を詰める、という目的がはっきりしているので、読みを進めていきやすい、とも言えます。
できるだけ理論的に解説していきたいと思っています。よろしくお願い致します。
1図は△5八とと寄られた局面。これを題材に、終盤戦ではどのような順序で読みを進めてゆけば良いか、を説明したい。
まず、相手玉に即詰みがないかを考える。詰んでしまえば話は簡単だが―。
▲7一角から迫るしかない。これに△9二玉なら、▲9三金△同桂▲同角成△同玉▲9一竜で詰むので、△同金の一手。以下▲同竜△同玉▲6二金打△8二玉▲7一角△9二玉▲8二金△9三玉▲8一金△8四玉▲7五銀△8五玉(2図)で僅かに詰まない。
6二の金が6一に居れば、2図から▲9七桂△7六玉▲7七金△7五玉▲5三角成から長手順の即詰みがあるのだが、△7一同玉のときに▲6一金打としても△7二玉と皮肉に逃げられてしまう。
次に、自玉は詰めろだろうか。詰みがなければ、相手玉に必至をかけて勝ちなのだが―。
▲6二金は、△6八と▲7七玉△7八と▲8六玉△8五銀▲同玉△8四歩(3図)。以下は簡単な即詰みである。
相手玉が詰まず、自玉が詰めろ、となると普通は一手負けなのだが、ここで攻防の一手がある。
▲7七玉(4図)。これが詰めろ逃れの詰めろになっている事は、2図を見れば一目瞭然であろう。
4図以下、後手が詰めろを防ぐとすれば△9二玉ぐらいだが、▲9五歩がまた▲9三金からの詰めろになるので、先手の一手勝ちである。
<今月のまとめ>
相手に即詰みがあるか。
A.即詰みがあれば、詰まして一手勝ち。逆王手に注意。
B.即詰みがない時、自玉が詰めろになっているか。
(ア)詰めろでなければ、相手玉に必至をかけて一手勝ち。
(イ)詰めろの時、
a.受けに回って、詰めろを消す。
b.王手をかけながら、駒を使わせて詰めろを消す等。詰めろ逃れの詰めろで玉への速度を逆転させて、鮮やかな勝ちを狙おう。
<今月の宿題>
毎月宿題を出すので、考えて頂きたい。考慮期間は1ヵ月である。
今月はまず、将棋盤に△1一玉と▲1三歩を置く。これで何を持っていれば詰むか、というのが問題である。
金1枚は誰でもわかる。飛だけでは詰まないので、あと何が必要か。角を持っている場合はどうか、などと考えて、少なくとも5通りは発見してほしい。
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非常にロジカルでわかりやすく、凛々しい雰囲気の講座だ。
終盤の読みの手順が丁寧に、かつ工夫されて解説されているので、10倍理解度が高まるような感じがする。
実戦で、詰めろ逃れの詰めろをかけるのは非常に難しいことだが、これなら自分でもできるかもしれない、と希望が持ててくるところが嬉しい。
同時に、「もっとやっておけばよかった詰将棋」という言葉も思い浮かんでくる。
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「考慮期間は1ヵ月である」という恐ろしい今月の宿題。
解答は次の通り。(近代将棋1994年2月号、谷川浩司王将(当時)の「寄せを極める」より)
- 金
- 飛飛
- 飛角
- 飛銀
- 飛桂桂
- 飛桂香3
- 飛香4
- 角角銀
- 角銀銀
これだけ発見できれば100点満点である。付け加えると、6と7は何れも9一で詰む。8と9は似ているが、8は▲3三角、9は▲4四角でないと詰まないのが面白い所である。
この宿題で100点満点を取れるようであれば、神の領域だと思う。