「関係ないことですが、女性に対し、最近の私は、この▲5一角のようにはっきりしない手を選んで、失敗の連続」

将棋マガジン1991年1月号、泉正樹六段(当時)の「囲いの崩し方」より。

 4図は、互いに竜を作り、寄せの構図をどう築くかという局面。

 ここで、▲7三竜や▲9一竜と桂香を取る手は、次に厳しい手もなく、後手を安心させるだけ。

 それに、玉が二段目にいる状況では、竜(飛)もその筋にきかせておく方が、より効果的な攻めができるものです。

〔候補手〕①5一銀、②4三歩、③5一角。

 ①5一銀? この手だけは、着手を踏みとどまったとしても、浮かんだだけで勝利の女神は遠のきます。

 ほったらかしの△5七銀成なら▲4二銀成で銀の顔は十分立ちますが、強く△4一金と引かれた場面を想像すると、そっけない返事で可愛い娘にソッポを向かれた、もてないナンパ師の様。

 ②の4三歩が、ハートを射止めるのに最適の「しびれの一着」。

 これに対し、△同金直が普通の応手ですが、そこで▲4一銀が「矢倉崩しの基本」ともいえる攻めです。

 以下、△4二金寄と頑張っても、▲6一角(参考F図)で後手陣は収拾困難。

 戻って、▲4三歩に対し、△同金左はやはり▲6一角が急所の一着。

 △4一金は手順に▲9一竜と香を取り、何れも先手勝勢となります。

 金頭に一本叩くだけで、これだけの成果が上がるのですから、正しく「一歩千金」とはこのことです。

 ③の5一角は、如何にもさえない感じのする手で、△5七成銀と迫られ、はっきりしません。

 関係ないことですが、女性に対し、最近の私は、この▲5一角のようにはっきりしない手を選んで、失敗の連続。男らしい態度が必要と痛感しています。

(以下略)

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泉正樹六段(当時)らしさ全開の囲いの崩し方講座。

▲5一銀よりは▲5一角の方がまだ救いはあるが、たしかにいかにも冴えない手に見える。

泉六段は「最近の私は、この▲5一角のようにはっきりしない手を選んで、失敗の連続。男らしい態度が必要と痛感しています」と吐露したいという思いから、この例題を作ったとも考えられる。

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①5一銀の、そっけない返事で可愛い娘にソッポを向かれた、もてないナンパ師の様。

泉八段は、このような状況も経験している。

27年前の悲劇