福崎文吾八段(当時)「皆、僕と遊ぶために家に来たんとちゃうんかいな」

将棋マガジン1995年7月号、鹿野圭生女流初段(当時)の「タマの目」より。

将棋世界1994年1月号より。

☆いざ、福崎邸へ

タマ「神崎さん、今日はどうです?」

神崎六段「ブリッジですね。メンバーは、あと二人誰ですか?」

タマ「南先生と浦野さんが1時間位ならOKですって」

神崎「1時間じゃすぐ終わりますよ。福崎先生、なんで今日、来られてないんやろう」

タマ「思いきって電話して呼び出しますか?」

神崎「かけるん鹿野さんお願いしますよ」

タマ「あっ、そういえば、私、車で来てるから、福崎邸に行く手までありますよ」

神崎「それはすごい。じゃあ、すぐ行きましょう、南先生もいいですか」

南九段「ウン」

―了解を得て福崎邸へ―

福崎八段「よう来たなあ。狭いけどあがって」

南・神崎・タマ「おじゃまします」

福崎「さっそく、やろか。睦美も、ブリッジやる?」

福崎夫人「あら私も加えてくれるの」

神崎「じゃあ、公平にカード引きして、一人抜ける人を決めましょう」

タマ「抜け番の人は子供と遊ぶ、ということで」

―トランプを1枚引く―

神崎「はい、エート、福崎先生が抜けですね」

―長々とゲームが進み…―

タマ「さて、やっと次のゲームですか。福崎先生出番ですよー」

福崎「やっと出番かいなー」

南「次は、僕が抜けんねんね」

―ゲームは、一瞬にしてカタがついた―

神崎「今回は早かったですね。さっカード引きカード引き」

タマ「はい、あれ、また福崎先生の抜け番ですか?」

福崎「エー、また休みかいな。皆、僕と遊ぶために家に来たんとちゃうんかいな」

タマ「南・神崎・鹿野を人でなしトリオと呼んで下さい」

福崎「睦美、もう、ご飯の準備せなあかんのちゃう」

(何とか自分がゲームに加わりたい福崎先生であった)

* * * * *

「皆、僕と遊ぶために家に来たんとちゃうんかいな」と言う福崎文吾八段(当時)が可笑しい。

自分から奥様を誘った手前、「やっぱり代わってくれ」とは言い難い。

「睦美、もう、ご飯の準備せなあかんのちゃう」は苦肉の策とはいえ、夫婦の仲の良さを強く感じさせられる。

「棋士と結婚したのではなく、好きな人がたまたま棋士だったのです」

福崎文吾七段(当時)と百貨店

☆宴会

 名人戦第2局で熊本に行って来た。

タマ「もう遅いので、私はお先に失礼します」

米長九段「エ?お嬢ちゃん、もうちょっとゆっくりして行きなさい」

タマ「でも、私、ホテルが違いますから……」

米長「そうだ、それなら、福崎君の部屋に泊めてもらいなさい。おじちゃんが言っといてあげるから」

タマ「先生、先生がどなたに言っといて頂こうと、それはまずいですよ」

米長「そうか、これはおじちゃんが悪かった。おじちゃんが黙っといてあげるから、泊まって行きなさい」

タマ「センセ―」

(数分後にタマは無事宴席から脱出成功した)

☆パズル(熊本にて)

福崎八段「鹿野さん、僕、ホテルでパズル買ってん。一緒に考えてくれる」

タマ「ウンウン」

福崎「結構、簡単そうに見えて難しいねん」

内藤九段「何、やってんの」

福崎「僕が買ったパズルなんですけど、難しいんですよ」

(4ピースの木型を所定の形にするという単純なもの)

内藤「これは、詰将棋より簡単やろ」

タマ「4ピースだから、たったの4手詰ですよね」

―三人で考えること約10分―

福崎「あかん。誰かに答え聞こ」

タマ「あ、私、聞いてきます」

タマ「わかったわかった。聞いてきました。エート、こうです」

内藤・福崎「ウームなるほど。わかった」

福崎「じゃあ、バラバラにしますよ。ハイ、内藤先生、もう一回作って下さい」

内藤「よっしゃ。……あれ、あれ、どんなんやったかな。戻らんなあ」

タマ「エー、詰将棋の名手、握り詰めも作る、あの内藤先生が……」

内藤「あかん。これは難しい。私も買うて帰って、淡路(八段)や小阪(六段)にやらしてみよ」

* * * * *

「そうか、これはおじちゃんが悪かった。おじちゃんが黙っといてあげるから、泊まって行きなさい」

これは誰にも真似のできない、米長邦雄九段ならではの会話。

* * * * *

「僕が買ったパズルなんですけど、難しいんですよ」(4ピースの木型を所定の形にするという単純なもの)

調べてみると、このパズルは「木製T字パズル 4ピース」である可能性が高い。

このようなパズルに熱中するのも、棋士ならではの勝負師魂に由来するものではないかと思う。