羽生善治四冠(当時)「散らかっていないと編集部じゃありません」

将棋世界1999年9月号、野口健二さんの編集後記より。

 某日、NHK「ETV特集」の取材を受ける。といっても主役は羽生四冠。原稿を打ち合わせをしている光景を撮るとのこと。慌てて片付けにかかると「散らかっていないと編集部じゃありません」と羽生四冠。放送ではカットになることを祈るばかりだが…。

——–

羽生善治四冠(当時)の「散らかっていないと編集部じゃありません」には、

  • ありのままを見てほしいので、いつも通りの姿でいてほしい
  • 散らかっているほうが、編集部らしく、視聴者にとってもわかりやすい
  • 自分の取材のために片付けをするなど、わざわざ手間をかけてもらうのは申し訳ない

のような気持ちが込められているのだと思う。

——–

机の上に書類などがたくさん乗っている編集部は、いかにも編集部といったイメージだ。

同様に、雑然としていていろいろな所に様々な物が置かれていたのがテレビ局。

NHK杯戦の観戦でスタジオに向かう時、何か変だなと思ったことがあった。

「いままでと何か変わった雰囲気がするんですが……」

「消防法の関係で、廊下にいろいろと物を置きっぱなしにすることができなくなったんですよ。それで片付けをしてこのような感じになりました」

個人的に少し寂しい気持ちになった。

日本テレビが麹町から汐留へ、TBSが一ツ木通りから赤坂の奥へ、フジテレビが河田町から台場へ、テレビ朝日が古い局舎からアークヒルズを経て場所は元に戻ったけれども六本木ヒルズへ、テレビ東京が芝公園から虎ノ門へ移転して、皆近代化された建物となった。

昔と同じままなのはNHKだけ。

そのNHKまでが整然としたスタジオ前の廊下になってしまった。

私はいつまでも昭和の人間であり続けるのか、昔が恋しく感じられる。