将棋世界1996年4月号、神谷広志六段(当時)の「勝ち方のコツ」より。
「天空の城ラピュタ」というアニメがある。筆者はとにかくこの作品が好きで今迄見た回数は数百回いや下手をすると千回を超えるかもというくらい。ギネス級だと自負しているのだが何故か世間の評価はそれ程高くない。”「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」「紅の豚」(これらの作品もそれなりに好きなのだが)などで有名な宮崎駿云々”という紹介記事を読むたびに全身の血が逆流する程の怒りにかられてしまう。
この「ラピュタ」のクライマックス、ヒロイン・シータが悪役ムスカ(拳銃を持っている)に追い詰められた所へ少年パズーがシータを助けにくる。ムスカに対してランチャーをかまえ「石(この物語のカギをにぎり飛行石)は隠した。シータを撃ってみろ、石は戻らないぞ」と言う。この気迫に押されたムスカはシータとパズーの3分間の話し合いを許可して……この先を知りたければ貸しビデオ屋さんに行っってもらうしかないが、ここで問題となるのがムスカの態度。一見圧倒的有利な立場に立っているムスカが何故パズー達の要求を呑んだのか。人にあきられる程見てきた私の結論は”パズーのランチャー”。実はパズーはこの時持っていた2発の弾丸を使い切り、ランチャーは弾切れ状態。しかしそれをムスカは知らない。一方実はムスカの銃も全弾を撃ちつくしていた。ただしこちらは詰め替える弾を持っていた。「小僧、娘の命とひきかえだ、石のありかを言え。それともこの大砲で私と勝負するかね」と言ってはみたものの、実際パズーにランチャーで向かってこられた場合困ると思い、銃に弾丸を詰める時間を稼ごうとしたわけである。
パズーのランチャーには弾はなかった。
しかしどんな銃あるいは大砲であれそれに弾が入っていると相手が思い込み、行動が制約されるならばそれは弾が入っていることになるのである。
まあそういうわけで1図。先手が▲3五歩△同歩▲9五歩と突いた局面。
(以下略)
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「筆者はとにかくこの作品が好きで今迄見た回数は数百回いや下手をすると千回を超えるかもというくらい」
大学の時の講義で、好きな音楽なら何度でも聴くことはできるけれども、好きな映像を何回も繰り返し観るのは難しい(飽きてしまう)、ということを習った。
そのような自然の摂理がある中、千回を超える回数を観たというのだから、すごい。
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この頃の将棋世界では、屋敷伸之六段(当時)の「プロの視点」と神谷六段のこの講座がユニークな構成で、屋敷六段の講座の出だしは競艇のこと、神谷六段は書きたいことを書いてから講座の本題に移るという展開だった。
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「何故か世間の評価はそれ程高くない。『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『紅の豚』などで有名な宮崎駿云々”という紹介記事を読むたびに全身の血が逆流する程の怒りにかられてしまう」
Wikipediaの情報によると、2020年に行われた「一番好きな宮崎駿監督作品」の人気ランキングでは、『天空の城ラピュタ』が圧倒的得票数で1位となっているという。
神谷広志八段に先見の明があったことが実証されている。
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神谷六段は、この数ヶ月後にも、随筆で『天空の城ラピュタ』を大絶賛している。