将棋世界1997年8月号、佐藤康光八段(当時)の第38期王位戦〔対 中村修八段〕自戦記「経験が生きる」より。
将棋は私の先手。中村八段は変幻自在な「不思議流」と呼ばれる棋風で何をやられるか全く見当が付かなかった。
中村将棋は時折面白い着想を見せてくれる。3月25日に行われた日浦六段との竜王戦。矢倉からA図。
棋譜を並べていた私は次に△1一香とあるのを見て並べ間違えたかと思い、もう一度並べてみるとまたA図である。
最初は△2二金が玉の書き間違えかと思ったがそうではなかった。
少し考えれば分かったのだが△1一香(B図)▲同飛成は△1二金で竜が詰んでいる。
初めて見る手筋だがこのような常識にとらわれない柔軟さが中村将棋の特長の一つである。
(以下略)
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「棋譜を並べていた私は次に△1一香とあるのを見て並べ間違えたかと思い、もう一度並べてみるとまたA図である」
△1一香と打たれたB図の局面を見て、佐藤康光八段(当時)がもう一度初手から並べ直したのだから、いかに不思議に感じる局面であったかがわかる。
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「不思議流」の一手は、アマチュアはもちろんのこと、プロでも思いつかないような一手ということになる。
このブログの記事にあるものだけでも、
米長邦雄三冠(当時)も気が付かなかった、次の一手に出てくるような最終盤の絶妙手、
相手に手を催促して、相手に悪手を指してもらうようにする一着、
などの例がある。
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実戦のみならず、中村修九段出題の「次の一手」も、驚くような手が多い。
そのような意味でも、次の2問は、非常に印象的な次の一手。
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中村修九段は、「トーチカ」「塚田スペシャル」の開発者(井戸を掘った)でもある。
よくよく考えてみると、トーチカも塚田スペシャルも、不思議流の雰囲気が漂っているように思える。