青野照市九段の分析(1)

青野照市九段も、面白い文章を書く棋士として、絶対に外すことはできない。

1993年将棋ペンクラブ会報秋号より。

(太字は青野九段の文章、および編集した文章)

(前略)

私は以前から、将棋を競技としてとらえた場合、どんな位置付けになるのだろうか、いやその前に、競技をも含めた日本の文化というものはそもそも何なのだろうという、およそ結論の出るはずのないことを考え続けてきた。

(中略)

そもそも将棋は、ゲームとしてだけではなく競技としても、世界に類型の少ない競技であると思う。

ここで青野九段は、競技の形態を四つに分類している。

この分類法は、かなり鋭い視点だ。

X軸…速度で勝負を決める競技か、点数で勝負を決める競技か

Y軸…一対一で戦うものか、そうではないものか

この結果、次の四通りに競技が分類される。

  1. 一対一で、速度で勝負を決める→将棋、相撲、剣道、空手、(柔道)、レスリング、競輪、(ボクシング)、チェスなど…( )付きの競技はポイント制だが、実質的に速度勝負のゼロサム。
  2. 一対一で、点数で勝負を決める→囲碁、テニス、卓球
  3. 多人数の中で、速度で勝負を決める→水泳、スキー、スケート、陸上競技など
  4. 多人数の中で、点数で勝負を決める→野球、サッカー、ボウリング、ゴルフ、フィギュアスケート、体操など

野球やサッカーなどは、多数とは言ってもチームとしては一対一なので、「4.多人数の中で、点数で勝負を決める」と言うよりも「2.一対一で、点数で勝負を決める」に近いのかもしれない。

それでも団体競技というのは、勝っても負けても、終わった後にさわやかさが残るものである。

この「多人数の中で、点数で勝負を決める」の対極をなすのが、「1.一対一で、速度で勝負を決める」競技である。

この中には、日本古来の武道である柔道や剣道、また国技である相撲など、日本の競技が多いことをお分かり頂けよう。

この他、モンゴル相撲や、韓国のテコンドーなども同じだが、総じてこの中に含まれるのは、格闘技の類である。そして、将棋がこの中に入っているというのが、日本独特の文化であるという証明の一つである。

(中略)

将棋の最大のウイークポイントが負けた時のダメージの大きいことだと言われるが、敗者には何も残らない格闘技と同じジャンルだとすれば、これは致し方ないことである。

その点、点数で勝負がつく競技は4に限らず2の囲碁でさえ、勝負の決着が穏やかである。

つづく