加藤一二三九段の棒銀(1)

昨日は棒金の話だったが、今日は棒銀。

将棋世界1998年1月号、河口俊彦七段の「新・対局日誌」より。

A級順位戦、加藤一二三九段の棒銀と羽生善治四冠の振飛車の戦い。

河口俊彦七段の絶妙な文章。

(太字は河口俊彦七段の文章)

興味あるのは加藤九段だ。本対局の数日前、将棋会館に顔を見せたときの、テンションの高さといったらなく、羽生を破って名人挑戦者を目指す者の姿に見えたそうだ。

そういえば、加藤さんは元来羽生四冠との相性は悪くないはずだ。調べてみると、羽生7勝5敗の勝ち越し。ただ、羽生が五段から六段の頃、勢い最も盛んな時期に4勝1敗と勝ち越している。NHK杯戦で、羽生が歴史に残る妙手を指したのも対加藤戦だった。

これでは加藤さんも闘志を燃やすはずである。もし勝てば挑戦者争いの本命になる。

ところが、現実に指されている局面を見ると、嫌な予感がした。
図は加藤流棒銀の定跡形だが、これは二十年以上昔から指されており、先手がうまくいかない、と結論が出ている。はたして、新手順を用意しているのだろうか。
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図以下は、▲6六角△6四歩▲8八角△3三金。
▲3五歩と仕掛けたものの、△4二金と受けられ、これ以上攻めてもうまく行かない。そんな事知らないはずがないのにどうしたのだろう。
結局、▲6六角、▲8八角と昔ながらの「加藤式手待ち」のパターンになってしまった。よきにつけあしきにつけ、加藤さんはここ三十年くらい、まったく変わっていない。
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手損をするには、加藤流の考えがある。△6四歩、△7四歩を突かせることによって、攻め味が生じる。という読みだろう。
対して、△6四歩、△7四歩と二手指せるのは駒組みの進展でありがたい、との考え方もある。プロの大半は後者であろう。
私は振飛車党だが、△6四歩と△7四歩を突いた片美濃囲いには不安を感じてしまうほうだ。
ここからの文は、河口流の面目躍如。
だから、▲8八角と引いたとき、大山名人なら、フン、という顔で△7四歩と突いただろう。羽生四冠は、積極的にとがめてやろう、と△3三金と上がった。
大山名人が「無駄な手待ちで、そんな手がいいはずがない」という感じで手を表現するのに対し、羽生四冠は、具体的な手順を示そうとしたわけで、こういったところに、三人の天才性の違いがあらわれている。
つづく