「東村山音頭」誕生秘話

「東村山音頭」といえば、東村山市出身のドリフターズの志村けんが、TBS系「8時だョ!全員集合」で披露して大人気になった唄だ。

「東村山音頭」は、1963年に東村山市の市制施行を記念し東村山町農業協同組合がレコード発売した音頭で、「8時だョ!全員集合」では1976年から唄われはじめ、志村けん人気を飛躍的に高めた。

「8時だョ!全員集合」に「東村山音頭」が登場するきっかけとなったのは将棋だった。

いかりや長介「だめだこりゃ」に、登場の経緯が書かれている。

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「8時だョ!全員集合」のネタ作りの会議は毎週木曜日に行われていた。いかりや長介さんと作家が中心となって行われる長丁場の会議で、ネタ作りに四苦八苦すると、しばらく沈黙が続いたり、雑談したり。

煮詰まると、メンバーはやがて隣の部屋に移り、ありとあらゆる暇つぶしを考案しては遊んでいた。将棋やポーカーが主流だったらしい。

メンバーが勝手にはじめたことだが、あまり頭をつかわせて、本番で演じる時にお粗末になってはいけないということから、いかりや長介さんは、むしろこの遊びを奨励していた。

いかりや長介さんとプロデューサーがお金を出して「優勝者には十万円!将棋の勝ち抜き戦」のようなことを年中やっていたという。

「だめだこりゃ」よりの抜粋。

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その将棋を指しながら、志村が得体の知れない歌をよく歌っていたのだ。

「ひがしむらやーまー にわさーきゃ たまーこー。王手飛車取りと」

「志村。なんだ、そりゃ」

志村はきょとんと私を見る。

「今、歌っていた歌だよ」

「俺、なんか歌ってたっけ」

将棋の相手だった加藤(茶)がいう。

「ひがしむらやーまーって歌ってたじゃねえか」

「ああ、あれね」

志村が得意げにいうのには、志村の郷里の東村山の方で役所が金を出して盆踊りの歌を作らせて三橋美智也さんに歌ってもらってレコードまで作った、その歌がそれだという。

「うるせえから黙って指せよ」

しかし、将棋が優勢になってくると知らず知らず思わずこの歌が口をついて出てくるのだった。

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このことがきっかけで、志村版「東村山音頭」が世に出ることになった。

ポーカーなどでは、相手に悟られてはいけないので自分の手が優勢だからといって鼻唄を唄うわけにはいかないが、将棋なら唄える。

将棋が媒介して、いろいろなことが生まれているのかもしれない。