泉正樹七段の「美女と野獣の会」

泉正樹七段は、自らを「野獣」と名乗っているが、たしかに酒を飲んでいるときに「ガオーッ」と叫ぶこともまれにあるが、小学生の頃はテレビドラマ「柔道一直線」や「ジャイアントロボ」で子役をやっていたほどの快男児。

1990年代後半、泉七段は、女性に対する将棋普及を目的に「美女と野獣の会」という無料将棋教室を2ヶ月に一度開催していた。

アマ強豪のKさんも師範として参加していた。私は縁あって、二次会要員として、最後の3回ほど呼んでいただいた。

以下、近代将棋1998年12月号、私が書いた「将棋ネットの散歩道(最終回)野獣猛進流」より、会のメンバーの女性の会話部分を抜粋。

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「泉先生の教室が始まって4年になります。会のメンバーは女性が7人、アマ強豪のKさんも師範として来てくれています」

この日はたまたま参加者が3名。皆それぞれ群馬、静岡、千葉など遠いところから来ていた。

「私たちは将棋のイベントで知り合った仲間だったんです。会っているうちに段々みんなで将棋を指したくなってきて…」

「でも当時の道場って女性が入りづらい雰囲気だったんですよね。それで困っていたら泉先生が『僕に任せろ』って言ってくれて教室が始まりました」

「お昼過ぎから夕方まで先生の自宅で将棋を教えてもらって、その後は食事を兼ねた飲み会、二次会はカラオケというのが定跡なんです」

将棋を好きになった理由を聞いてみた。

「数年前のNHKスペシャルで羽生-佐藤戦を見て興味を持ち始めました」

「私は、プロとアマの実力差が相撲に次いで大きいといわれるところに惹かれました」

このような会は、参加している女性にとって嬉しいものだった。

「私たち将棋も楽しいけど、久々に会う彼女たちと一緒に飲んだり話したりするのもとても楽しみなんです。泉先生にしてみれば何のメリットもないのに、こんな機会と場所を与えてくれて…私たちとても感謝しているんです」

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この会は、1999年か2000年まで続けられていたと思う。

ある日、泉七段から今度結婚をするという連絡があった。

聞いてみると、奥様になる女性は「美女と野獣の会」のメンバーの一人。

私は一度も会う機会のなかったメンバーだった。

中野隆義さんやKさんとともに、新宿で泉七段・奥様との飲み会があったのは、連絡があってからすぐのことだった。

「美女と野獣の会」はそういう目的ではなかったとしても、結果として泉七段の幸せに結びついたので、皆が祝福した。