続・大阪の姐御

2週間前の記事で話題になった、「大阪の姐御」と呼ばれている鹿野圭生女流初段。

今日は、多方面の切り口から、その得難いキャラクターを追ってみたい。

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近代将棋1998年6月号、船戸陽子女流初段(当時)の女流棋士自戦記「さりとて、春。」より。

一体いつから春なのだろう。それは四月一日から突然春などというものではなく、きっと春が来たとその人が思った時、その時が春なのだろう。

この対局日、いまだ二月。東京が一番寒いのがこの月である。しかし鹿野圭生初段にはとうに春が来ているに違いない。なにせ彼女は新婚なのだ。結婚なんて遠くの花霞のように感じる私でさえそれは春の日差しに見えるのだ。やれやれ。プライベートが幸せな人に将棋まで幸せにはさせないぞ。やれやれ。

(中略)

ふと横を見ると観戦記者が鹿野初段をスケッチしていた。そう、絵になる人なのだ。大きく分けて高群二段や古河初段なんかをほんのりとした色気とするならば、彼女は辛口の色気の人だ。前者を桜の花びらの浮いたほんのり甘いカクテルとすれば、彼女はギムレットにふさわしい。あるいはマティニ。そんなひとなのだ。

(以下略)

船戸陽子女流二段は当時、「カノタマさん」あるいは愛着を込めて「カノタマ」と呼んでいた。

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近代将棋1998年11月号、中井広恵女流五段(当時)の「棋士たちのトレンディドラマ」より。

関西の鹿野圭生女流初段もオメデタで、来年1月に出産予定だそう。

あんなに吸っていたタバコも、子供が出来るとわかったとたんに、ピタッと止めたというので、皆一様に驚いている。

森内八段が大阪へ行った時、阿部七段と一緒に鹿野さんの家へ電話して、いつものように麻雀に誘った。

「鹿野さんの様子がいつもと違っていたから冗談で『子供でも出来たんとちゃう?』って聞いたら、あっさり『うん、うん』って返事が返ってきたから『こんな雀荘の空気の悪い所にいたらアカン』て、すぐ解散したわ」

と、阿部七段。

後日、鹿野さんに電話したところ。

「あの日はちょうど、うしの日だったんよ。うしの日にウシから誘われて、行かんわけにはイカンやろう」

森内八段は、なぜか仲間うちで”ウシ”と呼ばれている。

「いつものように徹夜するもんだと思って、ダンナ様にもそう言って気合い入れて行ったのに、妊娠してるって言った瞬間に解散なんやもん」

「だから私も言っといたよ。『妊婦は運動もできないし、室内競技しかできないんだから、誘ってあげた方がいいんだよ』って」

「よく言ってくれた!」

でも、徹夜はどうかと思うが……。私の性格に似た男の子ならいいが、私に似た女の子だけは困るという姉御。元気な赤ちゃんを産んでね。

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近代将棋1998年5月号、故・池崎和記さんの「普段着の棋士たち 関西編」より。

千駄ヶ谷の将棋会館で全日本プロの藤井-森内(準々決勝)を取材。

(中略)

全日本プロは森内さんが勝った。百七十手を越す熱戦で、双方秒読みが六十手以上続いた。午後七時前に決着して感想戦が約二時間。

私は翌日、大阪で竜王戦の観戦があるが、もう最終の新幹線には間に合わない。連盟の宿泊室が満杯だったので、新宿で遊んで翌朝、のぞみで帰ることにした。それまで時間はたっぷりあるので千駄ヶ谷で森内さんと遅まきながらの夕食。女流の鹿野さんが対局で来ていたので彼女も誘った。

鹿野さんは森内さんのことを、ウシという。昔からそうだ。森内さんは食欲が旺盛で、ウシみたいによく食べるから、と私は(鹿野さんも)理解していたが、森内さんに聞くと由来は全然違うらしい。

森内「昔、トランプでひどい手をやったんです。それでウシみたいな手だと言われて……」

鹿野「変だなァ。大阪ではそういうの、ブタみたいな手、といいますけどね」

鹿野さんの言うとおりだ。もしかして”ウシ”というのは千駄ヶ谷用語なのかもしれないが、いずれにしても本物のウシさんとブタさんにとっては、失敬な話である。

(以下略)

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近代将棋1998年3月号、池崎和記さんの「普段着の棋士たち 関西編」より。

某月某日

家で原稿を書いていたら、リビングから突然、「出たァ!」と妻の声。「何や、大声出して」「鹿野さんよ、ほら」「鹿野さんがどうしたんや」「大阪ガスのコマーシャルよ!いま出てるの!

急いでテレビの前へ。鹿野さんがテレビのコマーシャルに出ているというのは聞いていたけれど、私も妻もまだそれを見たことがなかったのだ。関西の人、見ましたか?

某月某日

鹿野さんに出演料を聞いたら、「知らんねん。まだ、もろてないし」。のんきやね。そばにいた某関西棋士が「一年間、大阪ガスを使い放題やろ」。これには大笑いだ。でも、まさか、ね。

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それにしても森内俊之九段にも大変な時期があったということになる。

トランプでどのような悪手をやってしまったのだろう。

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