鈴木大介六段(当時)「穴熊の天敵は一に全駒、二に姿焼きであり、このように駒がぶつかれば後は負けても僕の責任ではない、というのが穴熊の極意?なのである」

将棋世界2000年9月号、鈴木大介六段(当時)の「鈴木大介の振り飛車日記」より。

 全日本プロで中井女流名人との対局。

 まさか自分が当たるとは思わなかった…。これも普段、他の棋士が女流と当たった時(負けろ、負けろ)と念じていた罰なのか。対局日までいろいろなことを考えて出した結論は、とにかく負けた時の予防線を張ろう(な、なんて弱気な…)ということだった。

 何処かへ稽古に行けば必ず、

「最近の女流は強いですからハハ」

「将棋連盟の話題作りに貢献して来ます」

 と言い放つ。これでOK。

 ところが棋士内ではそうもいかず、

某先輩「まあ今度負けたら君は当然坊主だな」(注・四段になったばかりの頃もこんな口約束で本当に一時期髪を短くした覚えアリ)

 某後輩奨励会員が楽しそうに…

「先生はダイジョ~ブ」

僕「なんで?」

 本当に楽しそうに…

「いやあ先生は何といっても実力者ですから」

……皆で遊びやがって…。

 当日は指す前から振り穴に決めて行った。朝出掛ける時、家内のありがたいお言葉。

「まあ気負わずやれば大丈夫でしょ…。でもアナタ気合入れた時は本当に弱いからねえ。まあ負けても家には入れないけど死ぬ訳じゃないんだからホラホラ」

 ああ、やっぱり負けられない訳なのねトホホのホ。

 ひそかに何かの間違いで不戦勝にならないかなあの願いもむなしく午前10時ピッタリに対局開始。午前中にスラスラと四間穴熊対銀冠に組む。やはり負けたくないと穴熊に頼ってしまうのも実戦心理でしょう。何といっても穴熊はトン死がないですからネ。

 6図は57手目。何とか戦いになりそうなのでホッとした。

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 穴熊の天敵は一に全駒、二に姿焼きであり、このように駒がぶつかれば後は負けても僕の責任ではない、というのが穴熊の極意?なのである。

 あとはリラックスするためにお喋り部屋(控え室)に向かう。まずは勝又五段と、

「今日は僕の応援ですか?」

「それだけはない!大地君のフルえる姿を見物に来ました」

「でしょうね」

 阿久津四段と、

「またお前はオレを笑いに来たのか!」

「いやめっそうもない。私クラスでは斎田さんに圧敗するくらいですから先生の女流退治を勉強させてもらいに」ニヤニヤ

「ダイジョーブ。何せ先生は何といっても実力者ですから…」

 本当に最近は後輩からこの”ダイジョーブ”攻撃に合うとこが多い。”ダイジョーブ”の後にもいろいろレパートリーがあり、例えば競馬場で僕が一人負けていると、

「~今日は先生が凌ぎ頭ですよ」

 後輩がン百円、僕がウン万円負けていると…

「~僕の百円と先生の一万円はほとんど価値が同じですから」

「~先生は実力がないんじゃなくて運がないんですよ。だってほらこんなに1着3着が多いじゃないですか」

 パチンコで大敗して帰ろうとすると

「~先生は実力者ですからこの台は後で必ず噴きますヨ!」

 普通こんなカワイイ?後輩達のいる世界はありますかね。

 こうやって僕は家でも外でも!?メンタル面を鍛えているんです。

(以下略)

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「穴熊の天敵は一に全駒、二に姿焼きであり、このように駒がぶつかれば後は負けても僕の責任ではない、というのが穴熊の極意?なのである」

これは、振り飛車穴熊を指す際の、精神的支柱とすべき名言だと思う。

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鈴木大介八段の奥様の、朝の言葉も名言だ。