三浦弘行棋聖(当時)の自戦記より

将棋世界1997年1月号、三浦弘行棋聖(当時)の自戦記「思ったより堅くなかった玉」より。

不思議な面白さ、ユーモアを感じさせられる自戦記。

本局は竜王戦5組の昇級決定戦で、ランキング戦で早々と負けてしまったために、我々業界の間では別名裏街道と呼ばれる華やかさとは程遠い悲しい道のりを勝ち上がって、ようやくここまで来た訳です。

従って、積み重ねた物があるだけに、是非とも勝ちたい一局です。

竜王戦5組昇級決定戦の決勝にあたる3位決定戦、杉本昌隆五段(先)-三浦弘行棋聖戦。この勝負に勝てば4組に昇級、負ければ5組のままという戦い。

昔の大山名人の頃の振り飛車は、形勢はともかく、まだ眠気がとれていない午前中から、この様な指し方をする駒組は考えられませんでしたが、今は振り飛車側からでも、隙があれば序盤でつぶしてやろうとするので、全く油断出来ません。

杉本五段の四間飛車に対し、三浦棋聖は串カツ囲い。

当時、田中寅彦九段が指し始めた囲いで、この頃は串カツ囲いという名前は付いていなかった。

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形勢はどうでしょうか。

まず駒の損得。これは全くなし。

玉の堅さ、これもいい勝負。

手番は後手の私。

という事は後手の私が良いのでは?と思う方もいると思うのですが、ただ一つ、先手には大きな進展性があるのです。

次に先手は▲4六馬と引き付ければ、先手玉は堅くなり、後手は▲2五歩といずれ攻めて来られます。

また先手は▲6九歩と底歩で後手の竜を遮断する事が出来ます。

という事は、今は同じ堅さでも、いずれ玉の堅さが大差になるという事で、先手が圧倒的に良いと言えます。

これは▲4六馬と引き付ける手が、「馬は自陣に」という格言にピタリとはまる事や、余り知られていませんが、”内竜は外竜に勝る”という性質から来ているものです。

例外ももちろんありますが、この二つの特徴は覚えておかれると良いと思います。

”内竜は外竜に勝る”は初めて聞く言葉だが、とても役に立ちそうな実戦的な格言だ。

将棋は、この後、三浦棋聖の苦しい形勢が続き、三浦棋聖が敗れてしまう。

この変則的な後手の駒組みは、2局以上指されているのが、発案者の田中九段と佐藤康光八段と私だけで、他に1局だけ指して後は指さなくなったという人が数人いて、今は下火になっています。

理由を考えてみますと、本局の様な駒損なしの大捌きをしても、決して居飛穴みたいに即優勢という訳にはいかないからでしょう。

これからこの戦型が指されなくなってしまうのか、それとも新しい攻め筋が発見されて、流行する事があるのか、注目です。

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串カツ囲いは、端攻めになどに弱い。

この数年後、三浦弘行八段はミレニアム囲いを用いはじめ、2002年の升田幸三賞を受賞することになる。

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話題は変わって、林葉直子さんのブログが今週も更新されている。→岡村さん