竜王戦真っ只中の季節。今日から4日間、5年前の竜王戦の雰囲気に浸ってみたい。
近代将棋2006年2月号、団鬼六さんの「鬼六面白談義 不心得者」より。
どんな真面目な仕事も遊戯に熱中しているほどには人は真面目にし得ない――といったのは詩人の萩原朔太郎である。たしかにその言葉は私にしてみれば身にしみる言葉であって、(中略)原稿を書いていても徹夜するということはまずないけれど将棋を指すことに熱中してこれまで何回、徹夜したかわからない。趣味とか遊びに自分が熱中すれば狂気すらはらんでいることに気がつくはずである。
しかし、それも昔、私が道楽で将棋雑誌を経営した中年過ぎまでであって、七十を超え、老境に達した現在では芯から将棋を楽しむ気にはなかなかなり切れない。
早い話、今回、第十八期竜王戦でも会津若松の「今昔亭」で行われた第1局と、岩手県の一ノ関市「いつくし園」で行われた第3局を観戦に出かけたのだが、将棋の観戦というよりは周囲の観光旅行に出かけたようなものである。第1局の会津若松では退院直後の快気祝いに出版関係者六人で出かけたようなもので、竜王戦観戦に便乗したようなもの。(中略)第3局目の一ノ関市に出かけたときは一ノ関市とは目と鼻の先にある平泉の中尊寺観光が目的である。名人戦とか竜王戦とかの観戦にくっついて行くと、日本中の名所旧跡を囲って歩けるようで今の私の老後の楽しみだといえなくもない。
それにこの第3局目の一ノ関はNHKの大河ドラマ、義経のクライマックスシーン平泉の段が登場するので、女優の山崎エリがぜひ同行したいというので連れて行った。
つづく
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これは、木村一基七段(当時)が挑戦者だった2005年の竜王戦の時の話。
渡辺明竜王にとっては初の防衛戦。(4連勝で防衛することになる)
将棋棋士の食事とおやつによると、第3局は、一日目の昼食が渡辺竜王、木村七段とも「中華そば」、二日目は渡辺竜王が「たぬきうどん、ヨーグルト」、木村七段が「ヨーグルト」。
ヨーグルトは木村七段の定番であったが、渡辺竜王も二日目に注文している。渡辺竜王の盤外戦術であったのか単に食べたかったからなのかはわからないが、たぬきうどんの食後にヨーグルトだ。
ヨーグルトの効果だったのか、二日目に、図から渡辺竜王(後手)の意表をつく強手△8六銀が出る。
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同時進行で、近代将棋の同じ号の、中野隆義さんの竜王戦第3局観戦記より。
東京八重洲口を出てすぐのところにあるレストラン「東京温泉」は、鬼六先生お気に入りの店であるらしく、旅の時はよくここで待ち合わせをする。そこでゆっくりお昼ご飯を食べながら、ちょうどよさそうな出発時間の電車を捕まえて出かけるのである。
小心者の私めなどは、予め切符を買っていないと満席で乗れなかったらどうしようなどと思い、気が気でないのだが、これまで一度としてそうした事態に陥ったことはない。
一ノ関駅に無事に降り立つ。弦巻さんと二人旅だと、ノータイムでタクシーに乗り込んで対局場へ一直線ということになるが、今回は鬼六先生と一緒だからそうはいかない。「この辺でコーヒー飲んでいこう」となる。鬼六先生と行動を共にしていると、なんでも性急に片づけてしまおうとしがちなところを諭されているような気がしてくる。
(つづく)