羽生善治名人に動じない森内俊之九段の過去の1シーン。
将棋マガジン1990年2月号、河口俊彦七段の「対局日誌」より。
A級順位戦の大山-塚田戦がありB級1組と2組の順位戦もある、という豪華な日である。
こういうときこそ、昼間からじっくり観戦して、表情の変わりようをお伝えしたいのだが、あいにく私も羽生と対戦していた。短時間戦だったが一分将棋が長くつづいて、終わったのは七時をすぎていた。(当然ながら私が負け)
まずは腹ごしらえと、羽生と私、それに、森内、先崎、弦巻カメラマンと五人で外へ出た。普通はすしか、うなぎか、中華料理か、軽くならそば屋だが、先崎の提案で、ステーキ屋へ行くことになった。
そういうとき、どんなことを話すかといえば、たとえばこんな話である。
本誌新年号の、マンガについてあれこれ言ったあと、
「そういえば、清水市代さんはおもしろいんですよ。研究会へ来るんですが、奨励会員のときは素顔で化粧なし。ところが、塚田さんや中村さんの会のときは、ちゃんと化粧して来るんです」
だれかが「そんなの、当たり前だよ」と断定した。清水さんは、やっぱり棋士なのである。
食事が終わると、羽生がサッと立ってレジへ行った。先崎が「すかさず羽生が勘定を払った、と書くんでしょうね」と私に言った。彼は羽生のところへ行き、千円札を何枚か差し出した。羽生が「エッ?(これが口ぐせ) なんですか」
「すきなだけ取って下さい」
「何枚でもいいんですか」
「どうぞ」
まるで、モノポリーではないか。羽生は一枚か二枚取った。弦巻さんは自分の分を払い、森内と私は「勝たしてもらいましたから」と羽生が言うのでご馳走になった。
森内がお金を払わないのは、ケチだからではない。そんなことに気を遣わない大人だからである。
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「そういえば、清水市代さんはおもしろいんですよ。 ~」と話したのは、先崎四段か森内四段か羽生六段のうちの誰かだが、先崎四段のような感じがする。
「そんなの、当たり前だよ」といかにも言いそうなのは、弦巻カメラマン。
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”本誌新年号のマンガ”とは、「8一School 1-4組」。
新年号から連載が開始されており、原案が清水市代女流三段で、画が村田ヒロシさん。
「ハイスクール イチヨ組」と読む。