義血侠血

今日のもう一方の記事、「山崎バニラさんが将棋世界に登場」に関連する無声映画の話題を。

近代将棋2006年12月号、湯川恵子さんの「ケイコの道場日記 義侠より二枚香」より、私が敗れた一戦。

2008年まで、「近代将棋道場」という将棋倶楽部24の仕組みを使った実名で参加するネット将棋道場があった。

「ケイコの道場日記」は、湯川恵子さんが近代将棋道場で起こったエピソードなどを綴ったエッセイ。ネタに困った月は私がよくネタにされた。

 話術研究会「蛙の会」の発表会が9月3日にあり、道場仲間の森さんが見に来てくれた。

 私は衣装もばっちり、将棋の駒をデザインしたチャンチャンコ着て街頭紙芝居で出演したのだが、後日、指しながら森さんが延々と語ってくれた感想は、無声映画「滝の白糸」のことばかりだ。

 水芸の女芸人が純愛で男に貢ぎ、しまいには殺人まで犯してしまう。男は出世して検事になっており囚われの彼女を裁く運命・・・・・・最後は二人とも自殺してしまう。

「いやぁ泣けました。あまりの感動に泉鏡花の原作を何度も読んでいます。原作の題名は『義血侠血』というのです」

 へぇ~強烈な題名ですね。

 映画のヒロインが将棋の駒模様の浴衣を着ているシーンが長く映っていたが、その部分、原作の小説の中でも駒模様の浴衣姿だそうだ。

「それは義血侠血の、侠の面を表現しているのかもしれません」

 ははぁ将棋は義よりも侠のほうのイメージなのか。

 ふと見れば彼が端から仕掛けてきた。△1五歩▲同歩△同香、と。

 義より侠、キョウ!?

photo (23)

 対していったん歩をうった局面が上図だ。素直に▲1五同香と応じると△同角と飛び出され△3七角成を狙われるが、上図で緩和。以下△同香▲同香に△1五歩と打たれるのだが、相手の角の活用を避けたし、先に香を手持ちにできたので、そう悪くないでしょう? というかごく普通の手筋ですよね。上図は。

 しかしその後もぐちゃぐちゃに攻められ続けた。敵は義血侠血に燃える男、いや泣けているんだっけか、とにかく手がつけられない状態だったが、途中で香がもう1枚、入ってきたので私は密かに狙いを持った。

 下図、自陣の金銀をボロボロ貢いだあげくのひどい露出玉。詰めろかけられて受けようのない局面だ。

photo_2 (11)

 ところが私の狙いがバッチリ決まった局面でもある。間隙を縫って仕掛けておいた9筋の二枚香、そして駒台にも香がある。そう、そうよ義よりキョウの一戦なのよ。図から▲9三銀以下、即詰みだ。

「ぁぁぁぁ・・・・・・」

 と彼がキー打って来たが、じきにまた泉鏡花の小説の話に戻る。

「もう1冊『売色鴨南蛮』というのも泣けるんですよぉ、これも女が男に貢ぐ物語でして」・・・

 う。売色鴨南蛮じゃ将棋欄にこじつけしにくい。

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よく見ると、盤面の右半分の駒がほとんど消え去っている。

酔っ払っていたとはいえ、敗れたとはいえ、振飛車的には理想的な捌きだったのだろう。

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「義血侠血」は、1894年(明治27年)に執筆された泉鏡花の小説。

「義血侠血」を原作として、芝居や映画で「滝の白糸」が演じられた。

「滝の白糸」のあらすじは次の通り。(Wikipediaのあらすじをベースに加筆)

金沢の女水芸人「瀧の白糸(本名:水島友)」は、乗合馬車の御者をやっていた元学生、村越欣弥と知り合う。

欣弥が金のために学問を断念したことを知った白糸は、自分が仕送りをして欣弥を支援することを約束する。欣弥は恩を受けることを決断し、東京の学校に入学する。

この時、白糸24歳、欣弥は25歳。

はじめの2年間は問題なく仕送りができたが、3年目の冬、それもままならなくなり、また芸人仲間の若い連れを駆け落ちさせるなどして旅座仲間の南京出刃打の恨みを買う。

白糸は一座のために高利貸しの岩淵から金を借りたが南京にそれを強奪され、岩淵と南京がグルであることを責めようと白糸が岩淵を訪れた折、誤って岩淵を刺し殺してしまう。

死刑を覚悟した白糸は、命あるうちに一度だけ欣弥に会いたいと東京へ行くが、会うことかなわず逮捕される。

金沢へ戻って、取調べに立った検事は新任の欣弥だった。

恩人を裁かなければならない運命に苦悩する欣弥。

欣弥の出世した姿を見て、満足する白糸。

拘置所を訪れる欣弥に白糸は正直に裁いて欲しいと懇願し、法廷で欣弥は白糸に包み隠さず正直に証言するよう諭す。白糸は言われるままに正直に殺人の経緯を告白。そのまま法廷内で舌を噛み切って自殺を遂げる。

欣弥は、翌朝、ピストルで自殺をする。

このような悲恋の物語が「滝の白糸」だ。

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「滝の白糸」は6回映画化されているが、1933年制作の溝口健二監督の無声映画「滝の白糸」が最も有名だ。

瀧の白糸を入江たか子、村越欣弥を岡田時彦(岡田茉莉子のお父さん)が演じている。

DVDでの活弁士は、澤登翠さん。

澤登翠さんは活弁士の第一人者で、山崎バニラさんの師匠にも当たる。

とにかく、死ぬほど泣ける映画だ。

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青空文庫「義血侠血」

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戦後に公開された「滝の白糸」の映画では、最後は二人が結ばれるバッピーエンドの筋書きに変わっているという。

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泉鏡花の「売色鴨南蛮」は、映画では「折鶴お千」。やはり溝口健二監督によって映画化されている。主演は山田五十鈴。

情婦であるお千が、自分が犯してきた人生の失敗を償わんがために、その希望を少年に託し、自己を犠牲にしても(肉親でも愛人でもない)少年の出世を願おうという物語。

青空文庫「売色鴨南蛮」

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泉鏡花は将棋が好きだった。

1954年の「王将」創刊号に倉島竹二郎さんが「鏡花先生の将棋」という随筆を書いている。

泉鏡花は、いつもオミキ戦法ばかりやっていたという。

オミキとは金開きの変形、7七銀・7八金・3七銀・3八金・5八玉型とでもいうのだろう。

泉鏡花は「義血侠血瀧」で、白糸の容姿を次のように表現している。

 その年紀(としごろ)は二十三、四、姿はしいて満開の花の色を洗いて、清楚(せいそ)たる葉桜の緑浅し。色白く、鼻筋通り、眉(まゆ)に力みありて、眼色(めざし)にいくぶんのすごみを帯び、見るだに涼しき美人なり。 

 これはたして何者なるか。髪は櫛巻(くしま)きに束(つか)ねて、素顔を自慢に脂(べに)のみを点(さ)したり。服装(いでたち)は、将棊(しょうぎ)の駒(こま)を大形に散らしたる紺縮みの浴衣(ゆかた)に、唐繻子(とうじゅす)と繻珍(しゅちん)の昼夜帯をばゆるく引っ掛けに結びて、空色縮緬(ちりめん)の蹴出(けだ)しを微露(ほのめか)し、素足に吾妻下駄(あずまげた)、絹張りの日傘(ひがさ)に更紗(さらさ)の小包みを持ち添えたり。

 挙止(とりなり)侠(きゃん)にして、人を怯(おそ)れざる気色(けしき)は、世磨(よず)れ、場慣れて、一条縄(ひとすじなわ)の繋(つな)ぐべからざる魂を表わせり。想(おも)うに渠(かれ)が雪のごとき膚(はだ)には、剳青淋漓(さっせいりんり)として、悪竜(あくりょう)焔(ほのお)を吐くにあらざれば、寡(すく)なくも、その左の腕(かいな)には、双枕(ふたつまくら)に偕老(かいろう)の名や刻みたるべし。

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