「君代わりに投了しておいてくれ」

将棋マガジン1987年5月号、コラム「棋士達の話」より。

  • 対局は深夜に及ぶことが多いが早指しの対局もある。見習いの記録係がその速度についていけずしばしボー然。気付いた故・高田丈資七段、親切に最初から教えた。書いていた記録係が「それから」と聞くと高田七段「バカッ、後は今から指すんだ」

  • 悪い将棋を粘っていた故・清野八段。休憩時間となって食事に。ところが盤前から離れて冷静になってみるとその形勢の悪さに気付き、すっかり戦意を失った。そこで連盟に電話をかけて記録係を呼び出し「君代わりに投了しておいてくれ」

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真横で見ていると、アマチュアの有段者でも正確に棋譜をとるのは難しいと思う。

ましてや早指しだったなら、その難度はさらに上がる。

慌てていると、6四と4六が特に間違いやすいような感じがする。

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将棋会館の外から電話で投了した事例があったという話は聞いたことがあったが、ここに載っているのが詳報。

清野静男八段(1922年-1977年)は、飲むなどの遊びも大好きだったので、一人で夕食を食べているうちに、将棋会館に戻りたくなくなったのだろう。遊び好きでなくても、投了だけのために対局室へ戻るのは気が重い。

また、この頃は奨励会員の人数も少なく、棋士は奨励会員全員の顔と名前が一致していた時代。

顔見知りの奨励会員で頼みやすかったという事情もあったのかもしれない。

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清野静男八段→稀代のプレイボーイ棋士