木村義雄十四世名人が語る花村元司九段。
とてもあたたかく、非常に思いがこもっている談話。
「東海の鬼-花村元司九段棋魂永遠記-」の巻頭文より。
花村九段のこと
十四世名人 木村義雄
浜松の愛棋家、稲垣九十九氏に紹介されて会ったんだが、棋理もよく知らんのに中終盤だけはしっかりしていて、稀に見る棋才だと思った。実戦でよく練られていたのだろうな。
本人も私の弟子になりたいと言うので、師匠になりプロ棋士への道を開いてやったのだが、「東海の鬼」と言われ、実に期待通りに活躍してくれた。
棋理にはあいかわらずうとかったようだが、将棋は強く、後輩の面倒見もよく、ファンにも好かれるという、それまでの棋士とは一味違ういわば名物男だった。
私が茅ヶ崎に移り引退してからも、時折遊びにきて近くの平塚競輪に行ったり、中心になって木村一門会や、私の盤寿の祝いをしてくれるなど、あれで案外気の回る男だったんだな。昨年、亡くなったときは本当にガッカリしてねぇ。
ファンの方々が、花村の残した棋譜や文章を読んでいただけるというのはありがたいことで、弟子達が集まって一周忌を前に花村の追悼出版にこぎつけた訳だが、手にとって読むと、余計に寂しい思いがするね。
本当に惜しい男を亡くしたという思いだ。
(1986年5月12日 談)
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花村元司九段は1985年5月25日に亡くなった(享年67歳)。
「東海の鬼-花村元司九段棋魂永遠記-」は、花村一門の弟子達によって1986年5月25日に追悼出版された寄稿集だ。
「棋魂永遠」は、花村元司九段が好んで揮毫していた言葉。
「東海の鬼-花村元司九段棋魂永遠記-」は125頁で、各誌紙に掲載された花村九段に関する文章13編と、21局の棋譜掲載からなる。
この中から、湯川博士さん、中野隆義さんの文章や、いくつかの花村九段の代表的な棋譜を、今後、紹介していきたい。