棋士の妻

将棋世界2000年6月号、鈴木大介六段(当時)の「振り飛車日記」より。

4月10日

(郷田八段との竜王戦に惜敗して)

 流れは僕の方にあった将棋なだけに残念。今期初黒星。これで今期10割の夢?は断たれた。唯一の救いは面白い将棋を指せた事。感想戦が終わった後、気が抜けて数分間立ち上がる事ができなかった。

 こういった日はパーッと飲んでいきたい所だがさすがに誰もいないので雨の中、新宿まで反省しながらトボトボと歩いた。最寄り駅の玉川学園前に着くと(午前1時過ぎ)妻が車で迎えに来ていた。結婚してから僕は負けると人生が嫌になって奇行に出る事を知っているようだ。敵も迎えに来てグチを聞かされるのだからたまったものではないだろう。

 本当に棋士の奥さんだけは絶対おススメ出来ない選択だと思う。

4月11日

 昨日、郷田八段に負かされ、今、原稿を泣きながら書いていると敵が

「今日は何する日?」

「今、原稿を書いているのも解らんのか。静かにしろバカ」(やや昨日の敗戦が効いている)

「アッソ。信じられないバイバイ」

 一階に降りる敵を見て血の気が引く(そうだ今日、結婚記念日だった)。

 本当にすっかり忘れてた。少し前の日まで、自分もすごく楽しみにしているのをちゃんと気付かれないよう装っていたのに・・・。

 今からどうやって敵のいる一階に降りていけば良いのか、本当の大ピンチ。

 敵と合うのが、お・・・恐ろし過ぎる。

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奥さんのことを”敵”というのは、原田泰夫九段流。

それにしても、「今日は何する日?」など、本当に健気で可愛い奥様だと思う。

鈴木大介八段の結婚式の時の物語→鈴木大介八段の涙