将棋マガジン1994年11月号、羽生善治五冠の「今月のハブの眼」より。
暑い、暑いが合言葉だった今年の夏もようやく峠を越え、涼しい風が感じられる季節が近づいて来ました。
秋と言えば、食欲の秋、芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋と色々な言葉がありますが、私の場合、この季節、対局が多くなるせいか、運動不足になりがちです。
普段はスポーツクラブに行って、泳いだりすることが多いのですが、先日は少し気分を変えてゴルフの練習場に行って来ました。
私のゴルフ歴というのは今から三年前、練習場に一度しか行かずコースに出るという暴挙から始まっており、その後、時々練習場に通っていたのですが、最近ではまったくやらなくなり、ゴルフセットは部屋の押入れの中でグーグーと鼾をかいて眠っていました。ただでさえヘボなのにブランクもあるのですから、慣れるまで時間がかかります。
しかし、最初、振っても振ってもボールに当たらないのには我ながら情けなくなりました。
それでも続けていく内にボールに当たるようになり、時々、ジャストミートすれば嬉しいものです。以前、練習場で悪戦苦闘している時に隣のおじさんからサインを求められて非常に恥ずかしかったことがあります。
他の場所はともかく、ここだけでは勘弁して下さいね。
さて、久し振りに練習して終わってみれば爽快ですが、指にまめが出来てこれが痛い。
痛い、痛いと言いながらこの原稿を書いています。 そして、ゴルフの方はしばらくやることもなさそうです。
(以下略)
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羽生二冠と私に共通点が二つあるとすれば、血液型がAB型であることと、ゴルフ練習場に一度しか行かずにコースに出たこと。
私にとっての初ゴルフは228(114-114)という驚愕すべきスコアで終わった。
その後、付き合いで何度か行くことはあったが、トータルで150を切ることはなかった。
ゴルフは走らなければならないスポーツだというのが私の場合の印象だ。
北海道でゴルフをした時のこと。
ティーショットを打つ直前に、北西10mの方向にキタキツネを発見した。
じっとこちらの方を見ている。
キャディさんに、「キタキツネにボールをぶつけてしまう恐れがあるので、キタキツネがいなくなるまで打つのを待ちましょうか」と聞いたところ、
「大丈夫ですよ。キタキツネも(下手な人のことは)分かっていますから」
私のティーショットは空振りに終わった。
キタキツネの姿は消えていた。
私は1994年を最後に、ゴルフからは手を引いている。
羽生五冠(当時)が、「他の場所はともかく、ここだけでは勘弁して下さいね」と言う気持ち、痛いほどよくわかる。