羽生善治四冠(当時)が名人位を獲得した第52期名人戦第6局、NHK衛星放送の解説が佐藤康光竜王(当時)と鹿野圭生女流初段(当時)だった。
将棋マガジン1994年8月号、鹿野圭生女流初段の「タマの目」より。
☆竜王
タマ「康光君て竜王なんだよね」
佐藤竜王「ええ」
タマ「竜王って言いやすいから竜王って呼ぼっと」
佐藤「言いやすいですか?」
タマ「うんうん。リューオー、リューオー、リューオー」
☆日向野さん
NHKの人「鹿野さん、女性はお一人ですから、何か困った事があったらこの日向野(女性)に言って下さい」
日向野「よろしくお願いします」
タマ「ワ~イ、偉い人になったみたい」
(控え室にて)
タマ「竜王、竜王、NHKにかわいい子がいるよ。日向野さんて言うの。お昼、一緒に食べようか」
佐藤「え、どんな人ですか」
タマ「目がクリッとしてて髪が長くてかわいいよ」
佐藤「はぁ」
☆昼食
タマ「このホテルでケーキバイキングやってて、サンドイッチもあるんだって、お昼ごはんそこにしてもい~い?」
スタッフ「別にいいですよ」
佐藤「え~、ケーキ? そんなに食べられませんよ」
タマ「大丈夫よ。サンドイッチもあるって書いてたし、私10個食べたことあるもん」
佐藤「え~10個??? サンドイッチは普通のでしょうね」
タマ「生クリームはさんであったりして」
佐藤「え~」
タマ「竜王かわいい。すぐに本気にするんだもん」
佐藤「素直な性格なんです」
スタッフ「テレビのテロップ(字)に”素直な性格の竜王佐藤康光”って入れときましょうか」
タマ「それなら、”素直な性格だと自分で言ってる竜王佐藤康光”の方がいいんじゃない?」
佐藤「え~」
(とは言いつつも日向野さんを誘ってケーキバイキングにつき合ってくれた佐藤竜王でした)
☆タイトル
タマ「竜王って偉いけど、将棋知らない人には、名人か、王将の方が通りがいいよね」
佐藤「個人的には棋聖っていうのが好きなんだけど」
タマ「うん、カッコイイ。村山君(七段)が棋聖になったら村山聖棋聖で、字面が悪いけど…」
佐藤「なるほど?」
☆控え室
佐藤「この局面から将棋やりましょう。どっちを持ってもいいですよ」
タマ「じゃあこっち」
―対局中―
タマ「こんなあかんわ。竜王強いもんね」
佐藤「じゃあ逆を持って指しましょう」
タマ「うん」
―対局中―
佐藤「これは、アカンなぁ」
タマ「ところで……」
佐藤「え?」
タマ「竜王、ベタベタの関西弁になってまっせ」
(竜王は子供の頃ずっと関西に住んでいた)
佐藤「え? しまった。鹿野さんに関西弁をうつされた」
タマ「あ~あ、長年かかって関東弁になってたのにィ」
佐藤「そうですよ」
観戦記者池崎「大盤解説でも言ってくださいよ。”あきまへんがな”って」
佐藤「そんなん言えませんよ(関西弁のイントネーション)」
―一同爆笑―
(以下略)
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「竜王って言いやすいから竜王って呼ぼっと」
竜王・王将(ひらがなの読みが5文字)、名人(同4文字)、王位・王座・棋王・棋聖(同3文字)のこの当時のタイトルの中で一番言いやすいのはどれか、という問題は残されるが、この場合は、「康光君」と呼ぶよりも「竜王」の方が言いやすいということ。
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一般的には、「え、どんな人ですか」と聞いて「目がクリッとしてて髪が長くてかわいいよ」という答えが返ってくれば、多くの男性は内心喜ぶと思うのだが、佐藤康光竜王(当時)の反応は「はぁ」。
佐藤竜王の好みが短い髪だったという可能性も残されるが、もしかすると「将棋を覚えたのは去年で、好きな戦法は棒銀」のような答えを期待していたのかもしれない。
とにかく、この辺は謎に包まれている。
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ケーキバイキングについてのやり取りから、佐藤竜王の「え~」は、この当時の口癖だったと考えられる。面白い。
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「テレビのテロップ(字)に”素直な性格の竜王佐藤康光”って入れときましょうか」
NHKの放送にこのようなテロップが出ていたとしたら、NHK史上に残るような画期的なことになっていたに違いない。
「それなら、”素直な性格だと自分で言ってる竜王佐藤康光”の方がいいんじゃない?」
は、鹿野圭生女流二段らしい絶妙なツッコミ。
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(語感、漢字の表記について)「個人的には棋聖っていうのが好きなんだけど」
佐藤康光九段は2006年に永世棋聖の資格を得ている。そういう意味ではとても気に入っている称号ということになるだろう。
「村山聖棋聖」はたしかに不思議な感じがする。神秘的にも思える漢字の並びだ。
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「竜王、ベタベタの関西弁になってまっせ」
「え? しまった。鹿野さんに関西弁をうつされた」
佐藤康光九段の関西弁というのは想像がつかない。
佐藤康光九段が関西弁で解説をしたら、多くのファンが驚くとともに歓喜すると思う。
もちろん、谷川浩司九段の関西弁での大盤解説も聞いてみたい。