加藤一二三九段が乗り移ったような藤井猛九段

将棋世界2003年3月号、A級順位戦より。

羽生、トン死で敗れる

 対局過多で、さすがの羽生にも疲労の色が見える。図は藤井戦だが、ここから信じられないような終局となる。

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 △2四香▲4二馬△同玉▲5三金△3一玉▲3二金まで藤井勝ち。

 まさかの大トン死。2四の香がジャマをして玉が逃げられなくなったのである。詰めろなら△2五桂打の方が広いし、それ以前に△3七馬なら詰みがあるのだ。残り時間もあり、さほど難しくない詰みを逃すとは。何とも羽生らしからぬ負け方である。

 一方の藤井はタナボタ的な一勝で、名人初挑戦へ一歩前進した。

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将棋世界2003年5月号、日浦市郎七段(当時)のA級順位戦最終局「挑決は羽生VS佐藤に」より。

 3月10日、三者プレーオフはパラマス方式のため第1局は、順位が下の藤井と羽生で行われた。この二人の対戦となるとどうしても今期順位戦で羽生がトン死した時の事を思い出してしまう。僕はその日控え室でモニターを見ていた。終盤はっきり羽生が良くなると藤井の手つきに全然力がなくなってきた。いかにも「もうこの将棋あきらめたかんね。さっさと形作ってウチ帰ってねるわ」というような投げやりな手つきになっていたのだが、最後勝ちになって▲4二馬と指す手つきが凄かった。その時モニターを見ていた棋士全員が思わず「うおーっ」と歓声をあげたくらい凄かった。全身に力を込め「この将棋もらったあああ」と叫んでいるような(実際に叫んでいたわけではない)手つきだった。一瞬加藤一二三九段が乗り移ったのかと思いましたよ。

(以下略)

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このプレーオフ一戦目は、千日手の後、相振り飛車になって羽生竜王(当時)の勝利。

羽生竜王は、その後の佐藤康光棋聖(当時)とのプレーオフにも勝ち、森内名人に挑戦、ストレート勝ちで名人を奪取することになる。

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加藤一二三九段が控え室の継ぎ盤で一人で検討しているのを見たことがある。

長考をした後の着手。

盤が割れてしまうのではないかと思うほどの駒音、超ド迫力だった。

一人で検討している時でさえあのような迫力なのだから、対局中に勝負手を放つ時はものすごい駒音になるのだろう。

・・・ということで、順位戦の時の藤井九段の▲4二馬は、半端ではない迫力のある手つきで指されたということになる。