将棋マガジン1991年3月号、「公式棋戦の動き(テレビ東京早指し戦)」より。
驚愕の一手
羽生前竜王は、テレビ将棋で、ハデと言うか、印象に残る手を指すことが多い。
対有吉九段戦も例外ではなかった。
この局面で、後手が気になるのは、▲6六角と1筋方面を見られる手。これを受ける△3三桂が自然な手か、と思っていると、羽生の指は、全く違う方向に動いていた。
△8三銀▲7六銀△7四銀▲7五歩△8三銀
ハッ、ハッ、ハクション。じゃなくて、はちさん銀! 誰もが画面を疑い見たことだろう。
角と銀桂交換の駒得だから、局面を落ち着かせれば自然に良くなる、とは言っても、△8三銀とはね。凡人には計り知れない一手だ。本譜は羽生の狙い通り局面が穏やかになり、8三の銀は5三に移動して大活躍。羽生が快勝している。見せる将棋を指せる羽生はやはりひと味違う。
—–
△8三銀は、派手な手というよりも、非常にストイックな感じのする手。
大好きな人とのデートで着ようと思っていたお気に入りの服を着て、大晦日の自宅の大掃除をするような雰囲気。
普通なら△4七銀成▲6六角△5八銀など指してみたくなるところだ。
たしかに、テレビ向きの一手であることは間違いない。