将棋ペンクラブ会報2001年春号、笹川進さんの「A級順位戦最終局裏レポート 出勤風景編」より。
3月2日、A級順位戦最終局を取材した。マジメなレポートは「近代将棋」を読んでもらうとして(ちゃんと買ってくださいね)、裏バージョンを。
▲朝、雪がちらつく。トップを切って姿を見せた森下八段の鼻が赤い。マフラーに手袋。さすが、準備がいい。佐藤九段はペットボトル数本ぶら下げて登場。
△トリは和服姿の田中九段。カメラの前でガッツポーズ。「長いから、昼寝でもして待っていてください」と笑わせる。相変わらずサービス精神旺盛。
▲A級棋士10人のファッションを個人的に採点すると、一番カッコよかったのは谷川九段。長身に紺のコートをなびかせ颯爽と歩いてきた。意外にサエない印象が羽生五冠。たぶん、綿かダウンの入った白のカジュアルっぽいコートで、他の棋士がおしゃれに薄いコートでガンバってるのに、なんか羽生さんだけぬくぬくとして見えるんだもの。
—–
笹川進さんは当時の将棋ペンクラブ幹事。
大手週刊誌のアンカーを務めるバリバリのライターだ。
笹川さんは近代将棋2001年5月号で、『A級順位戦最終局密着レポート「将棋界の一番長い日」』を書いているが、会報の記事はその裏バージョン。
—–
書きたいけれども、記事スペースの関係で盛り込めないようなエピソードというものがある。
あるいは、面白いエピソードなのだけれども、観戦記や記事に盛り込むと主題や構成をかえってボヤケさせてしまうので、割愛せざるをえなかった話の数々。
このような、埋もれてしまったエピソードに光を当てた一つのケースが、将棋ペンクラブ会報での笹川さんのコラムだ。
—–
私が書いた過去の観戦記を例にとると、
郷田真隆九段の真骨頂(NHK将棋講座2006年1月号、NHK杯戦 郷田真隆九段-先崎学八段戦〕では、昨年のブログ記事「郷田真隆九段の思いやり」が、観戦記に盛り込めなかった話だ。
また、上記記事にも盛り込めなかった次のようなエピソードもある。
(その1)
対局後の昼食時(事実上、打ち上げの飲み会)の終盤近くの15:30頃、
郷田真隆九段(当時)が「日本酒も頼もうかな・・・」と呟いた。
しかし、少考後、「でも日本酒飲んじゃうと、今日一日何もできなくなるからな・・・」
ということで、日本酒は見送られた。
この時、すでに生ビール4杯目くらいの時。
家に帰ってからも将棋の研究をするのかと思い、すごいと思った。
(その2)
この頃から郷田九段(当時)は携帯電話を持ち始めた。
ご家族が病院に入院したりしているのでという話だった。
今から思えば、2007年に亡くなられたお父様を思ってのことだったのだろう。
(その3)
郷田九段(当時)の、「ワープロ始めてみようかな」は、「ワープロ習いに行こうかな」的なニュアンスで語られた。
北浜健介七段は「ワープロ、便利ですから絶対にやったほうがいいですよ」。
先崎学八段は「僕は原稿を書く時、手書きとワープロ半々だけど、ワープロも悪くはないけどね」。
そこから、郷田九段(当時)の、
「でもパソコンがあってもあまり使わないからな・・・そうだ、囲碁のネット対局ができるか」
の会話につながる。
—–
今週から来週前半にかけて、A級順位戦最終局裏レポートシリーズが続きます。
笹川さんの記事が面白いのでお楽しみに。