渡辺明竜王の「たぬきうどん」

渡辺明竜王が、昨日行われた朝日杯将棋オープン戦決勝で菅井竜也五段に勝って優勝を決めた。

今日は、渡辺明竜王の「たぬきうどん」の話。

NHK将棋講座2006年1月号、山田史生さんの第18期竜王戦(渡辺明竜王-木村一基七段)観戦記「絶妙手に木村沈む」より。

対局場は奈良市の「奈良ロイヤルホテル」。

 ▲4八銀の次、昼食休憩。木村は席を立つ際、盤側に向かって、「飛車を引く場所、1つ間違っちゃったよ」と冗談を言った。昼食抜きの多い木村ながら、この日はツナ、ベーコン入りスパゲティー、渡辺はスパゲティーカルボナーラにサラダを注文、それぞれ自室でとった。

(中略)

 2日目の午前8時45分、先に木村が対局室へ入った。グレー系の和服がよく似合う。木村は七番勝負を前に和服3着をあつらえた。着付けが不安なので毎局、将棋好きの呉服店の白瀧社長が付き添っている。実は渡辺も白瀧呉服店から昨年3着、今年も3着新調した。渡辺はほとんど自力で着られるため、最後のチェックだけ白瀧社長に頼んでいる。木村の和服のえり元が少し気になったのか、白瀧社長が後ろへまわって整えた。

(中略)

 5図の局面で昼食休憩。渡辺はたぬきうどん、木村はヨーグルトだけ。たぬきうどんはホテルのメニューになく特別注文。しかしたぬきうどんは、関西では油揚げの入った関東でいうきつねうどんのことで、正しくはハイカラうどんというのでは、などと桐山、脇両立会人を交え、控え室はしばしうどん談義。あとで渡辺に確認したら、とりあえずそれらしいものは届いたとのことであった。木村は局勢のあまりにもの悪化に、昼休みどころではなく「気分は最悪でした」と局後、語っていた。

(中略)

 投了は午後3時16分。NHK衛星放送再開の午後4時よりかなり前だったため、木村は感想戦で「出来の悪い将棋で申しわけない。衛星放送どうなっちゃうのかな」と気遣いながらも「連敗で流れは悪いが、それをひきずらないようにしたい」と語った。

 感想戦終了後、両者は解説会場へも登場した。渡辺はともかく、負けた木村にはつらい時間だったろうが、ファンに拙戦をわびる気持ちもあった。「苦しめだったので(△7五歩と)手を渡して様子を見たが、ものの見事にやられました。負け将棋を解説するのはシャクですね。渡辺さんは、いい気分でしょう。少しは悪い気分にしてやりたいです。第3局までまだ日があるので、次はしっかり指したい」と、気をとり直しての木村節も出て、ファンに次局以降の健闘を誓っていた。

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たぬきうどん(そば)ときつねうどん(そば)は、地方によって呼び名が変わる。

Wikipediaなどの情報を元に、その辺のところを整理しておきたい。

関東以北

たぬきうどん(そば)・・・天かす(揚げ玉)を入れたうどん(そば)

きつねうどん(そば)・・・甘辛く煮た油揚げをいれたうどん(そば)

京都

たぬき・・・刻んだ油揚げの上から葛餡をかけたうどん

きつね・・・味付けをしていない刻んだ油揚げを具としたうどん(きざみうどん)

近畿地方

たぬき・・・関東でいうきつねそば

きつね・・・関東でいうきつねうどん

覚えるのがとても大変そうだ。

ところで、関東でいう「たぬきうどん(そば)」は、他の地方ではどのように呼ばれているのだろう。

大阪では「ハイカラうどん」という名称で出している店もあるが、大阪は、ネギや天かすが入った器が席に常備され客が自由に入れることのできる店が多いので、関東で言う「たぬきうどん(そば)」に名前が付かなかったということのようだ。

また九州では、「ハイカラうどん」が関東のたぬきうどん、「はいから」が関東のきつねうどんという場合もあるという。

やはり覚えるのが大変そうだ。

ちなみに渡辺竜王は、第2局に続いて、岩手県一関市で行われた第3局でも二日目に「たぬきうどん」を頼んで勝っている。

岩手県でなら、「たぬきうどん」と言えば関東で言うたぬきうどんがデフォルトで出てくる。

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終局後の木村一基七段(当時)。

木村八段らしい気遣いと、「少しは悪い気分にしてやりたいです」という絶妙な語りが印象的だ。