それぞれの羽生世代

将棋世界1990年8月号、青島たつひこさん(鈴木宏彦さん)の「駒ゴマスクランブル」より。

 「馬鹿だなあ。こういうのは、絶対にサインもらうほうがいいんだ。向こうだって、それを待っているんだから」

 先崎四段だ。

 「そうかあ」と郷田四段。

 「そういえば昔、パンツにサインしたことあったなあ」森九段。

 「なるほど。パンツにサインを頼んだら、してくれるかなあ」再び、先崎四段。

 王位リーグの最終戦が行われている日だというのに、将棋連盟の中にはなぜかうきうきした気分がただよっていた。タレントの菊池桃子が羽生竜王と対談をするために、連盟に来るというのである。

 菊池桃子といえば、菊池桃子である。アイドルだ。そのアイドルを将棋連盟に呼びつけてしまうのだから、羽生竜王はすごい。話をつけたのは、田丸七段だという。これもすごい。

 対談中、先崎四段と森内五段は、なんとか対談に割り込む手はないかと思案を巡らせていた。そして、もう一人、むずむずしていた棋士が・・・。

 高橋道雄九段。高橋九段はその昔から、菊池桃子の大ファンなのだ。森下六段と対局中の高橋九段はさすがに盤の前を離れない。離れないが、向こうの方がやってきた。羽生との対談を終えた菊池桃子が対局室に観戦(というか、見物でしょうね)にきたのである。高橋九段の顔がぴくぴくとひきつったのは、いうまでもない。

 先崎四段と森内五段はしっかりサインをもらっていた。菊池桃子は「将棋を指してお金をもらえるなんて、初めて知りました」といっていたそうだ。さすが、アイドル。

 将棋のことも忘れてはいけない。この日行われた王位リーグの最終戦で、佐藤康五段と福崎八段が勝ち、挑戦者決定戦はこの二人で行われることになった。

(中略)

 ちなみに、対局中の佐藤五段は終始盤上没我。一人菊池桃子とは無縁の世界にいた。

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(タイトル、段位は当時のもの)

超緊張しながら対談をしている羽生善治竜王。

サインを積極的にもらう先崎学四段と森内俊之五段。

サインをお願いするのは菊池桃子さんの迷惑になると考える郷田真隆四段。

盤上没我の佐藤康光五段。

それぞれの羽生世代。

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斉藤由貴さんと菊池桃子さんが大ファンの高橋道雄九段。

この日、高橋九段は森下卓六段に敗れている。