将棋世界1993年1月号、所司和晴六段(当時)の「さあ、将棋を始めよう!!」の『-王座と竜王の-入門者へのアドバイス 楽しみながら上達しよう』より、谷川浩司竜王(当時)のアドバイス。
―谷川さんは、百科事典で覚えてお兄さんとやり始めたという話が有名ですが。
「覚えたのは、まだ幼稚園の頃だったので兄が学校から帰ってくるまでは、盤に駒を並べて一人二役をやったりしていました。兄が帰ってくると毎日のようにやっていました。その頃は本を読むより実戦の方が多かったですね」
―入門者におすすめの上達法ですが。
「どうやったらゲームが終わるかを覚えることです。始めたばかりの人の場合、なかなか終わらないんですね。まず一手詰の形を覚えていくことです。戦法は、シンプルで決まった時の破壊力が大きい戦法を覚えたほうがいいでしょう。中飛車や棒銀がおすすめです。うまくいけば一気に敵陣を突破できます」
―本を読んで勉強したいという人には、どのような本がおすすめでしょうか。
「図面がたくさん出てくる本ですね。極端なことを言えば一手ごとに図面が出てくる本です。一手が無理ならせめて三手ごとぐらいに。初めての頃は、棋譜を盤に並べるのも大変なはずです。そういう意味でも図面がたくさん出てくる本がいいですね」
―初心者の頃は駒落ちから手筋の基本を学んだ方がいいという話もよく聞きますが。
「駒落ちもいいんですが、初めてルールを覚えた人がやっていくうえで、”楽しみながらやる”というのが一番大事だと思うんです。本当の初心者に"手筋"というのは難しいと思うんです。同じ駒落ちでやるのなら勝てるような、楽しめるルールでやるのがいいと思います。たとえば飛車落ちでやるにしても上手に飛車を落としてもらうより持ち駒として飛車をもらったほうが勝ちやすいと思うんです。一手詰の形を覚えるのも詰ます楽しみ。勝つ楽しみを覚えていくためなんですね。勝っていけば自然に楽しくなって上達していくと思います」
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駒落ちのみならず、落とした駒を下手の持ち駒にするというのが斬新な考え方だ。
勝っていけば自然に楽しくなる、たしかにそうだと思う。
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古来より、将棋を始めたばかりの人に人気のある戦法は中飛車と棒銀だった。
私が小学5年の時、同級生に棒銀をやってこられた。
本で読んだ棒銀は、▲1五歩△同歩▲同銀と、銀を犠牲にする端攻めする形だけだったので、角頭を狙ってくる棒銀の破壊力には驚いた。
何回か苦汁を飲まされて、角頭を破られないように向かい飛車にして対抗した。
実戦の大切さを思い知らされた初めての体験だった。
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私が入門書を読んで、初めて好きになった戦法は「タテ歩取り戦法」。後年はひねり飛車戦法と呼ばれるようになった。飛車を転回させて石田流の形に組んでからの破壊力が、子供心に魅力だった(この頃は、三間飛車にしてから石田流にするということは知らなかった)。
しかし、タテ歩取り戦法は、相手が変なことをやってくれば実現できない戦法。
一度もタテ歩取り戦法にならなかった。
しかし、形を覚えると良いこともあるもので、私が浮き飛車にしているにもかかわらず、相手が△8六歩から飛車先交換をしてきて相手の飛車を只取りできたり、私がのぞき角にしたのにもかかわらず相手が無防備で▲5三角成と馬を作れたり、とご利益はあった。
ヘボな小学生同士の将棋だ。