将棋世界1993年11月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時(大阪)」より。
ところでこの棋士室には、対局中の棋士が相手の手番になると、ふらりと現れることがある。
その間に相手が指すと、記録係が呼びに来る。
「◯◯先生、指されました。◯◯金です」という具合に。
この日も私と対局中の有森六段が棋士室にいた。当然私が指すと、記録の矢倉三段が有森六段を呼びに行く。
「有森先生、指されました。同歩です」
「同歩ぅー?」
有森は首を傾げながら対局室に戻ってきた。しばらくして「だだだ」と笑い出す。
「どないしたん?」
「いや、さっき矢倉君が呼びに来てな、同歩っていいよんねん」
「同歩って・・・そんな手どこにもないで」
「そやからおかしいと局面見てたら、ワシが次に指す手のことやってん」
「なんやて!や、矢倉君。キミは月下の棋士か」
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月下の棋士の意味は次の通り。
将棋世界1993年10月号、神吉宏充五段(当時)の「対局室25時(大阪)」より。
ますます面白くなってきた「月下の棋士」、今度はA級順位戦で「大原巌」対「刈田升三」の記録係をかって出た氷室将介、何と!対局が始まるや否やカリカリと昼までの棋譜を書き上げた。
「あんたらの昼までの指し手を作っておいてやったぜ」
そう言って部屋を飛び出した将介、再び夕方に戻ってきて、投了までの棋譜を作り上げ「これが俺の実力だ!」
まあ何というか、この発想は浮かばんかった。
(以下略)
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矢倉規広六段の奨励会時代の逸話は面白いものばかり。
もっと探してみたいと思う。
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有森浩三六段(当時)の「だだだ」という笑い声。
どう笑えば「だだだ」になるのだろう。
絶対に一度聞いてみたい。