森内俊之五段(当時)の「足して2で割る」

将棋世界1992年1月号、森内俊之五段(当時)の第22回新人王戦第2局〔森内俊之五段-森下卓六段〕自戦記「異次元の将棋」より。

 10月28日、田中(寅)八段に惨敗して記者室でぼんやりしていると、関係者の方に、今度の新人王戦の開始時間を9時にしてもらえないだろうか、と頼まれてしまった。なんでも第1局の終了時間が遅すぎて、次の日の新聞に棋譜が載りきらなかったのが原因らしい。

 一瞬、すぐ引き受けようかと思ったが、ふと相手が森下六段だった事を思いだした。

 森下六段といえば毎日7時に起きて、朝から研究会をやるというような、将棋界には珍しい超朝型人間。

 一方私はといえば、対局の日でも午前中はほとんど頭が働いていない。

 という訳で、我儘を言って結局午前9時半に開始という事にしてもらった。

(以下略)

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新人王戦決勝三番勝負は現在でも10時開始なので、この時は異例のことだったのだろう。

開始時刻9時半とは、見事な折衷案だ。

9時開始に同意するか、10時開始を譲らないかという二択で物事を考えがちになってしまうところだが、森内俊之五段(当時)は非常に柔軟な対応をとったことになる。

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このように、足して2で割ってうまく折衷案が出るケースは、世の中では意外と少ない。

アナログ放送の時代のことになるが、一人が日本テレビをみたい、もう一人がフジテレビを見たい、というチャンネル争いをしている時に、日本テレビ(4チャンネル)とフジテレビ(8チャンネル)の間をとってTBS(6チャンネル)を見よう、というのは折衷案にはならない。

東京に住んでいるA男さんが、「今度の連休は二人で大阪に遊びに行こう」と同居している妻のB子さんに言ったとする。B子さんは、「わたしは、東京でブラブラしていたいな。そうだ、連休はお台場に遊びに行こうよ」。

この時、「それじゃあ、東京と大阪の中間にある名古屋へ行こう」とA男さんが折衷案を出したとしても、妥結に至らないのは目に見えている。

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もっと難しいのはタクシーの割り勘問題。

Cさんがタクシーで自宅へ帰ると3000円、Dさんがタクシーで自宅へ帰ると5000円。

ある日の深夜、帰宅方向が同じのCさんとDさんがタクシーで一緒に帰った。

Cさんが降りた時のタクシーメーターは3000円。

「俺がまとめて払っておくよ。明日、精算しよう」とDさん。

その後、Dさんが自宅前でタクシーを降りた時に支払った料金は、Cさんの家まで少し遠回りをした関係で6000円。

この場合、CさんとDさんは、それぞれいくら負担すれば良いのか?という問題。

足して2で割るのなら、

・二人がそれぞれ別々に帰っていたら8000円かかっていた。

・それが6000円で済んだ。

・得をした差額の2000円を二人で山分けしよう。

ということで、それぞれ1000円割引き。→Cさんは2000円、Dさんは4000円の負担額。

これでも良さそうな気はするが、得をした差額は出資比率(一人で乗った時の金額)に応じて分配されるべきという考え方もあるだろうし、「もともとかかるお金だったんだから」とCさんが3000円払って太っ腹なところを見せるのも選択肢としてはありそうだし、いろいろと難しいところだ。

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3000円と5000円の人の相乗りだから計算方法に迷うが、もっと極端に考えて、自宅まで3000円のCさんと自宅まで10万円のEさんが相乗りして、Eさんが10万1千円支払ったケースはどうなるのか。

出資比率に応じて計算すると、家まで3000円のCさんの割引額はほとんどなくなってしまい、相乗りのメリットがなくなってしまう。

それも、やはり変だと思う。

やはり難問だ・・・