郷田真隆四段(当時)「僕はどう? 何人兄弟に見える」

将棋世界1991年9月号、「棋士交遊アルバム 郷田真隆&島崎和歌子」より。

郷田 プロの将棋指しは130人ぐらいいてトーナメントプロとして戦っています。僕もその中の一人です。

島崎 おじいちゃんが、すごく将棋が好きだったんです。私は全然できません。まわり将棋ならできるけど。

郷田 高知出身と聞いていますが、東京にはいつ頃出てきたの?

島崎 3年前です。

郷田 兄弟は?

島崎 兄と妹の3人兄弟です。でも、年に1回ぐらいしか会えない。

郷田 僕はどう? 何人兄弟に見える。

島崎 うーん。一人っ子かな。

郷田 姉が一人いるんだ。エレクトーンの先生をやっているんだけど。僕も子供の頃は習っていたんだ。エレクトーンにも級があって、10級ぐらいは持っているんだよ。

島崎 お姉さんと、二人で将棋を指しているんですか。何かそんな感じがするんですけど。

郷田 いやいや、姉とは将棋はしませんよ(笑)。したってしょうがない。高校を中退したんだって?

島崎 ええ。定時制の学校へ通っていたんですけど、仕事の方が忙しくなったんで。

郷田 将棋指しは月に3回か4回ぐらい対局をやって、あとはヒマ。だけど、そのヒマな時に将棋の勉強をやって、自分で生活を管理しなければならないんです。

島崎 自分の事は自分で管理するんだ。勉強というのは先生とかに教わるんですか?

郷田 先生はいるんですが、将棋は教わらないし、勉強の仕方も教わらない。符号というものがあって、それで示されている人の棋譜を調べたり、詰将棋を解いたり、とにかく一人で勉強法をみつけるところから始まるんです。

島崎 符号とか棋譜とか、何か数学みたいなんですね。

郷田 そうそう、図形みたいなものかも知れないですね。僕は小学校3年の頃から将棋のプロになろうと思って、そしてずっとそのままここまで来たって感じなんですが、島崎さんは。

島崎 私はスカウトされたんです。

郷田 へえー。仕事は楽しい?

島崎 ええ、とても楽しいです。将棋に比べて勝ち負けがそんなにはっきりする訳じゃありませんし。

郷田 将棋は実力の世界だからね。強いヤツが基本的には偉い。まあ、ありえない話だけれど、例えば15歳でも名人になってしまえば、60歳の八段よりも偉いという世界ですから。だから負けるということは結構つらいんです。勝っていればこんなにいい世界はないって感じかな。

島崎 厳しいですね。だからあんまり女性は見かけないんだ。年配の男性の方が多いなというイメージですが。

郷田 朝とかは早いの?

島崎 5時とか6時という感じです。

郷田 将棋は10時に試合開始。お互いに6時間ぐらいずつ持ち時間があって、夜中まで座りっぱなしなんだ。

島崎 審判はいないんですか?

郷田 審判は大きな試合の時以外にはいないんだけど、記録をとる係がいるんだ。僕も棋士になる前はやっていたけど、対局者に命令されれば、何でもいうことをきかなければならない。煙草を買ってこいといわれれば買ってくるし、居眠りしていたら、扇子でポンと頭を叩かれることもある。

島崎 つらそう。

郷田 それで、やっぱり勝負の世界だから、その記録係の方が年が上ということも当然ありうる訳です。僕も年下の記録をとったことがあります。で、そういうことがつらいから、一所懸命頑張ろう、はやくここから抜けだそうという気持ちが湧いてくるんだ。

島崎 大変ですね。1回考えると、どのぐらい先のことまで考えるんですか。

郷田 20手ぐらい先かな。

島崎 どうして、そんな先のことがわかるんですか。

郷田 そろばんの暗算みたいなもので、一つ一つを考えていくというよりは、イメージとして読んでいくんだ。

島崎 1回指すのに、どのぐらい考えるんですか。

郷田 僕は長考派ということになっていて、一手指すのに3時間ぐらい考えちゃうこともある。将棋には定跡といって、過去の人が長年に亘って築いてきたバイブルみたいなものがあって、でも僕はプロなんだから指す時はそれを踏襲するだけではなくて、それを自分で打ち破りたいと思って、それで長くなっちゃう。定跡を覚えて従うというだけではなくて、この局面で自分はこうやりたいんだという意志を持って、指したいと思っている。

島崎 何か、将棋に対するイメージがちょっと変わったみたいな気がします。

郷田 今日は何の仕事?

島崎 島田学校といって・・・。

郷田 あれ見たことあるよ。昨日も見ていた。映画は?

島崎 去年やりました。「スキ!!」という映画。

郷田 色々と大変だろうけど頑張ってね。

島崎 ありがとうございます。

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この時、郷田真隆四段(当時)は20歳、島崎和歌子さんは18歳。

1991年は、アイドル歌手としてデビューした島崎和歌子さんが徐々にバラエティーにシフトしはじめていた頃だ。

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定跡を覚えて従うというだけではなくて、この局面で自分はこうやりたいんだという意志を持って、指したいと思っている」という郷田四段の思いは現在にも貫かれている。

郷田四段の将棋に関する話は、将棋が初めての人でもとても理解しやすく、かつ奥深いことまで語られている。

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居眠りをしてしまった郷田奨励会員の頭を扇子でポンと叩いて起こした棋士が誰だったのかは、こちらの記事で→郷田九段にとっての記録係

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