将棋世界1991年10月号、林葉直子女流名人・王将(当時)のJT将棋日本シリーズ’91女流リレーエッセイ「30倍と50倍の仲」より。
フフフ。
大山先生ってば、ほんとうに可愛いんだわ。
なにがって?
そりゃ、ぜんまい仕掛けのお人形さんのようにチョコチョコ動きまわるお姿もそのひとつですが。
金沢で行われたJT杯で、ご一緒させていただいて、やっぱりステキだと思わされてしまった。
ハイ。
なんせ、この私と趣味が合うんですもの。
「大山先生は辛い物がお好きなんですよね」
大山情報を仕入れていた私はすかさず先生に質問。
ニコリと微笑みながら、ジュースを飲む手を止め、
「そうねえ、嫌いなものは何もないけど辛いものは好きなほうだね」
「カレーはお好きですか?」
「好きですよ。そうそう、前にね、30倍カレーっていうの?食べたことあるんだけど」
「え・・・!! 辛くありませんでした?」
「そうねぇ、ちょっと辛かったけど・・・」
「私、50倍カレーって超激辛を食べて周りの人からヘンだって言われるんですけど、大山先生も30倍のカレーをお食べになるんですか」
「水を飲まないでネ、イッキに食べるのがコツなんだよね、あれは」
「そうです、そうです」
「しかし、30倍カレーを食べに行ったとき、私だけは大丈夫だったんだけど他の人はダメだったね」
「それはそうでしょう、将棋界の人でそんな辛いものを食べるのは私ぐらいだと思ってたんですが、大山先生もですか」
私が50倍カレーを食べるとのウワサは将棋界の中ですぐに広まり、私の味覚はヘンだということで通っていたが、ほらみろ! こーんな強い仲間がいたのである。
「林葉さん、相当辛いの好きなんだねぇ」
「はいっ、大好きです」
「初めて訊いたよ、30倍カレーより辛いのを食べた人がいるって」
「私もです。大山先生と私、味覚が似てるかもしれませんね」
「そうかもしれないねぇ」
ニコリと笑いジュースを飲みほした大山先生。
やっぱりイイ。
この私、ヘンタイ呼ばわりされること数多いのだが、”一緒だ”とうなずいてくださる方はこの世に大山先生しかいないかもしれないんですモノ。
(以下略)
—–
林葉直子女流名人・王将(当時)は、大山康晴十五世名人を心の底から慕っていた。
同じ年の将棋マガジンでも、大山康晴十五世名人のことが書かれている。
→林葉直子「私の愛する棋士達 第1回 大山康晴十五世名人の巻」
—–
林葉さんはこの当時、激辛カレーはCoCo壱番屋で食べることが多かったという。
林葉さんは2005年に六本木で「ウーカレー」というカレー店を経営することになるが、店で出していた激辛裏メニューは「青唐辛子カレー」。
辛いものが好きな私も一度頼んだことがあるが、三口でギブアップするほどの激しい辛さだった。
—–
私は今年の夏、鼻の手術をして8泊9日の入院をしていたわけだが、退院した日に昼食で向かった先は、麹町にあるインド料理店「アジャンタ」。
この店のマトンカレーを食べたかったからだ。
辛さのせいで鼻血が出てきたらどうしようとも少しは考えたが、全く問題はなかった。
それにしても、今考えると、相当に無茶なことをやったような感じも少しだけする。