将棋世界1992年4月号、東公平さんの第3回富士通オープン将棋トーナメント決勝戦〔丸山忠久四段-菊田裕司アマ〕観戦記「ゴールキーパー丸山」より。
司会の女子アナ「この富士通オープン、第3回にして初めて、なんと、プロアマの決勝対局となりました」
必要事項はほとんど、この人と、同時解説の羽生棋王、先崎五段がしゃべってしまっている。観戦記者は速記やテープ起こしをやる係か。材料が多過ぎて、うれしい悲鳴をあげながら机に向かう。
菊田さんと丸山四段の略歴、その戦績などは重複は避けるが、とにかく現時点で「アマ最強」の、史上最年少アマ名人・アマ王将に対し、「対アマ無敗」の、いうなればプロチームの「ゴールキーパー丸山」の一騎打ちだ。頑張れ菊田、百万円もらって祝杯あげようと、一緒に上京(京都の人も上京というのか?)して来た学友が約十名。氏名略。
片や丸山は早大三年生。
先崎「将棋指しやりながらワセダ大学へ行くなんて・・・どうやって受かったんでしょうかね」(笑い)
羽生「僕は先日菊田さんと角落ちでやったんですけど、ボロボロに負かされました」(笑い)
先崎「ボロボロになった?」(笑い)
羽生「あたり前ですよね、よく考えてみたら」(笑い)
センちゃんの話術に見事に調子を合わせる羽生棋王は声の質が永六輔と同じである。続いて先崎五段が、菊田-中原角落ち戦は上手勝ちで、中原名人がその直後、菊田さんに負けたプロと「平手」を指す前にジョークを放った話をし、また笑いを取る。
(中略)
丸山、羽生、先崎が昭和45年生まれ(森内も同じ!)。菊田が46年3月生まれ。56、7年ごろの「小学生名人戦」はすごかった。『将棋年鑑』をお持ちの方はぜひ開いてみてほしい。中井広恵が堂々二位になった第6回、準決勝でヒロベエに負けた男子が畠山成幸。畠山鎮はその前に敗退し、羽生は優勝した高谷新也に負け、村山聖は佐藤康光に負け、佐藤は次に菊田に勝って準々決勝進出。
第7回は羽生優勝。決勝の相手が札幌の山下雄。森内は山下に負けて三位、丸山は屋敷伸之と当たる寸前で負け、屋敷は斎田純一に負け、斎田は準決勝で羽生に負け。菊田は羽生と当たる前に京都の樋口純平に負け。いやもう、先崎はどこで負けたろうとか、「中学生名人」は中川大輔だったとか宗内巌(東京)はのち京大生、学生名人と同一人物に違いないとか、トーナメント表を見てるだけで私は一時間を優に楽しんだ。
(以下略)
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東公平さんが書いている第6回と第7回の小学生名人戦の話。
名前を見ているだけでもワクワクしてしまう。
たしかに昔の小学生名人戦のトーナメント表を見ていると、すぐに時間が経ってしまう。
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将棋世界2000年6月号、安食総子女流2級(当時)の第25回小学生名人戦観戦記「キラキラ、小学生」より。
「強い棋士になりたい」
優勝者の言ったこの言葉が、今回一番心に残っている言葉だ。
”プロへの登竜門”として定着している小学生名人戦も今年で第25回を迎えた。第23回大会から、都道府県別に代表選考会が行われるようになり、それに伴って参加人数がかなり増えた。今回は過去最多の1334名で、昨年より100名近く増えている。
(中略)
さて、今回NHKのスタジオに現れた4人の少年達は、長崎代表の増本敬君、宮崎代表の都成竜馬君、東京23区代表の伊藤康了君、東京多摩地区代表の中村太地君である。彼らは、各都道府県大会で代表に選ばれた後、東日本大会、西日本大会でそれぞれ行われた予選、トーナメントを勝ち上がってきたメンバー。今日までも長い道のりである。
この中で伊藤君は研修生でD2に在籍している。また、増本君、中村君は3年連続各都道府県代表ということで、実力者ぞろい。収録前には緊張しているかなと思ったら、そんなことはなく特に増本君と都成君はとても仲が良さそうで、聞いてみると大会などでよく会うらしく2回対戦した事があるそう。リハイーサルの時も皆な楽しそうなのでかわいいなという印象だった。
抽選の結果、組み合わせは準決勝A組が増本-都成戦。B組が伊藤-中村戦と決まった。解説は第11回大会小学生名人の鈴木大介六段、聞き手は藤森奈津子二段で和やかな雰囲気で始まった。
まずはA組の西日本代表対決。戦型は都成君の四間飛車に増本君の棒銀となった。
(中略)
最後は都成君が決め手をはなち162手に及ぶ大熱戦となった。30秒の中で必死に手を読む2人の姿を間近に見て、迫力ある指し回しが印象的な一局だった。
2局目。B組伊藤-中村戦。東京勢対決となった。伊藤君はよく連盟道場のトーナメントで優勝して名前が載っているから強いんだろうな。中村君も実は知っていた。朝日アマ名人の東京予選を見に行った時にアマ強豪を次々と倒して「誰?あの小学生?」って言われていたあの子だった。確か代表になった嘉野満さんに予選であと一歩というところで敗れていたっけ。というわけで楽しみな一戦。戦型は中村君の四間飛車に伊藤君の棒銀となった。2人とも指し手が早く、自分なりの結論を出している事を窺わせた。やや居飛車ペースで進んでいると思われたが、難しい大詰めを迎えた終盤戦。ここで、ハプニングが起きた。伊藤君が、四段目にいた角を成ってしまったのだ。残念ながら反則負けである。一瞬びっくりしたが、2人ともすぐにその後の変化を感想戦で始めた様子にはさすがだなと思った。伊藤君には残念な一局とばってしまったが、また今後も頑張ってほしいと思う。
そしていよいよ決勝戦。都成-中村戦の東西対決である。戦型は予想通り相振り飛車となった。収録前にかわいいと思っていた少年達もさすがに対局中は目つきが鋭く、自信あふれる手つきに将来が楽しみだなと思ってしまう。
序盤で都成君が有利になり、中村君が必死に攻めをつなげる局面となった。そして迎えたのが3図。
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ここで、3図に至るまでの流れを見てみたい。
(先手・・・中村太地少年 後手・・・都成竜馬少年)
相振り飛車の序盤、都成竜馬少年の△4五桂(1図)が機敏な一着。
△5七桂成(不成)と△3七桂成(不成)が同時に受からない。
ここから中村太地少年の辛抱が続く。
〔1図以下の指し手〕
▲2二角成△同銀▲6六角△3三角▲同角成△同銀▲6四歩△同歩▲6六角△4四角▲同角△同銀▲4六角△同飛▲同歩△5七桂成▲5八金右△6七成桂▲同金△4七角 (2図)
先手は泣きたくなるような局面。
中村太地少年の辛抱は更に続く。
〔2図以下の指し手〕
▲3八銀△7四角成▲2二飛△3二銀▲7五桂△7二銀▲6三歩△5一玉▲5八飛△3一金▲4五歩△2二金▲4四歩△5二金▲6二銀△4二玉▲7一銀成△6三銀▲8一成銀△3四角▲6八玉△8八飛▲7八金△8九飛成▲4三歩成△同銀▲4六桂 (3図)
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ここで角を逃げずに△7八竜。以下▲同玉△6六桂▲7七玉△6七角成▲同玉△5八桂成▲同玉と進み以下△7八飛から即詰みにうち取った都成君が、第25回小学生名人となった。第23回の高崎一生君に続いて宮崎県代表の優勝である。途中、(38手目)△7四角成と好位置につくった馬がよくきいていた。”馬が好き”な都成君にとっては特に嬉しかったようだ。また、悪くなってからの中村君の指し手も素晴らしく、勝負慣れした強さを感じた。収録後、都成君に「決勝戦はどうだった?」と聞くと、「相振り飛車の、自分の得意の形になって良かったです」と嬉しそうに話してくれた。表彰式ではトロフィー、楯、そして公文杯も授与された。
優勝した都成君は羽生四冠が好きな棋士だそうで、最後のインタビューでは、「プロ入りして強い棋士になりたい」ときっぱり言っていた。
今回この小学生名人戦を近くで見て感じた事は色々あるが、「棋士になりたい」という子供達の目がとても輝いていてかっこよく見えた事は嬉しかったことの一つだ。また「奨励会に入ったら香落ちがあるので、振り飛車も指せるようにしようと思って勉強しています」というしっかりした考えをもっている中村君に感心したり。戦っているのは本人だけでなく応援に来ている両親や兄弟等の支えがあることを感じたり。「いろいろ強い人と指した方がいいと思って大会にはどんどん参加させています」という御両親もいらっしゃった。
今後、今以上にたくさんの小学生がこの大会に参加して底辺が広がると同時にレベルも高くなっていくことを期待している。また自分も輝いている彼らの刺激を受け、負けないように頑張っていこうと改めて思った。
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小学6年生の時の中村太地六段と、小学5年生の時の都成竜馬三段。
こういう時があって今がある。
都成竜馬三段は、10月に行われた新人王戦決勝三番勝負で藤森哲也四段に2勝1敗で勝ち、優勝を決めている。
都成竜馬三段が小学生名人戦で優勝した時の聞き手の藤森奈津子女流二段(当時)は、藤森哲也四段のお母さん。
何かドラマチックな、不思議な縁というものを感じてしまう。
将棋世界の最新号には、都成竜馬三段による新人王戦決勝三番勝負第3局の自戦記が載っている。
三段リーグは厳しく6年以上壁を越えられずにいること、
あと一歩ということもあったけれども、その一歩が果てしなく遠い一歩に思えてきて、好きで選んだ道のはずが、苦しくて対局が怖くなっている自分があったこと、
今回の三番勝負は自分にとって大切なものを再確認させてくれたこと、
今回の優勝を自信として、また、師匠の谷川浩司九段の言葉を胸に、前を向いて超えていきたいこと
などが書かれている。
早く四段になってほしいと本当に思う。
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中村太地少年も、普通なら序盤から戦意喪失してしまいような将棋であったにもかかわらず、凛とした前向きな手を指し続けている。
すごいことだと思う。
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ちなみに、この年の小学生名人戦では、兵庫県代表の稲葉陽少年が西日本大会で増本敬少年に敗れている。
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写真は、将棋世界グラビアより。
この時の小学生名人戦の表彰式の模様。
今日は私の誕生日。
歳が一つ増すごとに、このような写真を見た時の感慨がどんどん深まっていくような感じがする。